TopicsVol.22

タナカカツキさんインタビュー

サウナの心地よさから考える
フィットネスの未来

サウナブームはすでに定着し、もはや日常となりました。
『マンガ サ道』で知られるタナカカツキさんは、サウナブームの立役者の一人。
マンガやドラマを見て、たくさんのサウナーが誕生しました。
そのタナカさんとサウナとの出合いはジムだったそうです。タナカさんにサウナとの出合い、運動とサウナとの関係を伺いました。
聞き手・井上英樹(MONKEY WORKS)
イラスト・タナカカツキ

サウナとの出合いは
フィットネスジムだった

職業柄、机に向かっている時間が長く運動不足に陥りがちです。2008年、ジムに通い始めました。走るのが苦手なのですがウォーキングマシンとの相性がよかった。付属のテレビで高校野球を見ながらだと延々と歩けてしまう。球児たちも頑張っているし、私も頑張っていますから、共感が生まれる。球児たちが頑張っているのにやめられません。歩き終える頃には汗だくです。運動後にお風呂に行くと、マンガのアイデアが湯水のように出てくるんです。だけど、家へ帰るとヘトヘトで作業ができない。つい、歩きすぎてしまう。そんな頃、サウナに出合います。

ジムの浴室にサウナがあったんです。サウナなんておじさんの入る「終わった場所」のイメージしか持っていませんでした。興味はなかったのですが、新しいサウナだったので、サウナ室も新しく、木の良い香りがしたんですね。サウナ室にしばらく入っていると体が熱くなったので外に出ました。今なら、水風呂に入り、外気浴をするところですが、当時はそんな知識はありません。「浴室になんで水風呂があるんだろう。なんか洗うのかな」って思っていたほどです。その後、何度かサウナを使っているうちに、足だけ水風呂につけるようになりました。体が冷えると、今度は暖を取りたくなる。知らず知らずのうちにサウナ室と水風呂を交互に入るようになりました。そうこうしているうちに、肩までつかれるように。そして、サウナ室と水風呂を何回か繰り返すうちに、……何かめちゃ気持ちよくなってきたんですよね。「なんだ、この気持ちよさは!」って。

サウナの気持ちよさを知る

当初、気持ちよさの原因が、サウナだと思わなかったんです。直前に食べた料理のスパイスが効いたのかなと思っていました。ですが、また別の日にもサウナで気持ちよくなる。「もしかしたら、サウナなのかも」と、気がつきました。快楽の原因を調べ出したんです。ですが、2009年当時は「サウナは健康に良い」くらいの情報はあっても、深く説明した情報なんて見当たりませんでした。

そんなとき、クライマーズハイの記事を読みました。登山は汗をかき、休憩を繰り返します。マラソンのランナーズハイみたいな状態になることがあるとのことでした。「ハイになる感じがサウナにそっくり。これはやっぱりサウナやな……」と、サウナの効果を確信しました。それから自分の体を実験台にして、身体とサウナの効果を調べだします。そうやって、私はサウナの虜になっていき、ウェブマガジンで『サ道』の連載を始めます。こうやって、私とサウナの関係は深まっていったのでした。

2011年11月に書籍『サ道』が発売されます。当初の反応はあまりよくありませんでしたが、日本サウナ・スパ協会が反応してくれたり、SNSでサウナ好きが繋がりだしたりして、徐々に反響が広がっていきました。2013年3月7日(サウナの日)に、日本サウナ・スパ協会からサウナ大使というものに任命されたのです。そして、この頃から「サウナブームが来た!」というようなことが言われるようになりました。

海外から見た日本の
「不思議なサウナ」

サウナ大使になると、「サウナのスポークスマン」として、取材を申し込みやすくなったのでしょうか。サウナに関する取材が増えるようになります。そして、時折海外で日本のサウナについて話す機会もいただくようになります。

実は日本のサウナはウケるんです。世界から見てとても特殊なんですね。まず、日本のサウナの多くにテレビがあるでしょう。アレは驚かれる。もう、爆笑です。「なんでサウナにテレビがあるの?!」「マジで?!」って。普段の娯楽や情報から逃れて休息する場がサウナなので、北欧などの施設にはまずないですね。サウナはリラックスであり、メディテーションの場なので、そこにエンタメ要素を入れてこないですよね。どこのサウナもとても静かです。

日本はフィンランド式のロウリュ(サウナストーンに水をかけて蒸気を出す行為)はあるわ、ドイツ式のアウフグース(タオルなどで蒸気を拡散させる行為)がある。しかもアウフグースでは、タオルや大団扇でワッショイワッショイ扇ぐ……。まるで祭りです。とにかく日本のサウナはエンタメ感がすごい。

今の日本にはこの「レジャーサウナ」と、リラックスを追求する「レストサウナ」の両方があります。外国人からすると、「えっ? どっちやねん」みたいな感じでしょうね。世界中のサウナの要素を取り入れているし、それに加えて熱いお湯にもつかるでしょう。あんな熱いお湯に入る人たちってほとんどいません。海外の温泉の温度はめちゃくちゃぬるいですからね。だから、外国人に「なんでもあり」の日本のサウナ施設を紹介すると「日本のサウナは世界平和だ」と言われる。つまり、国境や派閥がないのです。感動する人もいますね。……まあ、基本は笑われるんですけどね(笑)。

サウナだけじゃ
ダメなんです

サウナに入り始めた頃の私の暮らしはデスクワークとサウナの往復。ジムは家の近所だったので、移動距離は1日数百歩です。サウナが健康に良いといっても、基本は座って汗をかいているだけです。これではどう考えても体的には筋力低下ですよね。ちゃんと運動して、基礎体力や筋力をつけて、サウナも入り、作画もできるというのが一番美しいと思うんですよね。

今、サウナが人気で「美肌効果がありますよ」とか「リラックス効果があります」「血流良くなります」なんて言っているので、サウナに行けばいいと思いがちなんですけれども、それだけだとダメですよね。やっぱり体を動かさないと。座っているだけというのは、生物の進化の歴史を振り返ってみてもおかしなことですからね。

さらに今の時代はリモート出勤などで歩くことが減っている。ますますサウナだけではダメですね。これからは「サウナとプラスアルファ」がいい。例えば「ジムとサウナ」もいいでしょう。ジムにサウナがなければ近くのサウナに行けばいいわけです。「サウナとキャンプ」とか、「サウナと旅」みたいに、組み合わさっていくと、かなりいいのかなと思うんですよね。そうすれば動きますし、適度にリラックスもできる。そういう連携を含めてサウナなのかなと思ったりもするんです。

VR卓球にのめり込み
体脂肪が10%に!

私自身、出版社との打ち合わせや取材も、ほとんどがリモートです。だから積極的に動く機会をつくっています。日々の運動としてはストレッチを30分、公園一周の散歩と、オンラインのヨガ教室を入れています。これらを作画の間に入れ込んでいく感じです。さらに、「VR卓球」というのを1時間やっていました。VR卓球というのはオンラインゲームでして、AIが自分と同じレベルの対戦相手を世界中からマッチングしてくれるんです。だから、自分と戦っているようなものなので、毎回ギリギリの攻防をする。めちゃくちゃ面白くて、アドレナリンが出まくりです。つい、やり過ぎてしまい体脂肪が10%切ってしまったので、VR卓球は50分にしました。すると、体脂肪が10~11%に落ち着くようになりました。

これからの
フィットネスジムに
期待したいこと

今でもジムには通っていますが、それほど真面目にトレーニングをするタイプではありません。私の身体的特徴なのですが、乳酸がたまりやすく、疲れやすいんですね、以前、DNAを調べたときにわかりました。だけど、VR卓球やウォーキングはいくらでもできるんです。自分なりにきつくて汗をすごくかいているのに、休もうと思わないんですよ。アドレナリンが乳酸に勝利している状態なんでしょう。VR卓球後は汗でびっちょびちょです。この汗をベンチプレスで……と思ったら、そんなにアドレナリンは出ないじゃないですか。なんか常に気持ちいいのが好きなんですよね。

こんな私でも、「筋肉痛の心地よさ」は感じます。時折、筋肉痛になると「ああ、やったな」と思います。なんらかの達成感ですよね。きっと、筋トレにはまる人は、この達成感が気持ちいいのでしょう。私もなんとか、この達成感をエサにやらないかな……と思うんですけれども、つらさに負けてしまうんです。「でも、サウナもつらいだろ」と言われると、たしかにそうだと思います。習慣化していても長時間サウナ室に座っているのはつらい。筋トレがつらい瞬間を乗り越え、自分を成長させるというのはわかっています。わかっているんやけれども、「ずっと気持ちよくいたい」という方に流されてしまうんです。筋トレのあの我慢の時間を耐えられるような人間やったらいいな……とは思うんですけれども。

私はこれからのジムに「ずっと楽しい、気持ちの良い筋トレができるマシンやプログラムを作ってくれたらいいのにな……」と期待しています。実際、ドイツのイカロスというフィットネスマシンメーカーが空を飛ぶようなVR機器を発売しています。これはゲームなのですが体幹を使うのでやり終えると腹筋がバッキバキになる。自分の記録と戦えるのでこれまた盛り上がる。VRの卓球も似ていますよね。これらを「ゲームやんか」と思う人もいるでしょう。ですけど、やっていることは運動なんですよね。たくさんの汗をかくし、けっこう疲れるし、実際にVR卓球ではめちゃくちゃ体脂肪が減りましたし。これからのジムが「楽しい筋トレ」「気持ちの良い筋トレ」をフォローしてくれたらいいなと思っています。そうなれば、もっといろんな人たちがジムに通うようになるのではないでしょうか。

Profile
タナカカツキ
マンガ家。1966年、大阪生まれ。1985年、マンガ家としてデビュー。著書には『オッス!トン子ちゃん』、天久聖一との共著「バカドリル」などがある。カプセルトイ「コップのフチ子」の企画原案。水中園芸家でもあり、『世界水草レイアウトコンテスト』世界ランク最高4位、日本人ランク最高1位。2011年、『サ道』刊行後、日本サウナ・スパ協会公認のサウナ大使に就任する。2015年、『モーニング』(講談社)にて『マンガサ道』のブロック連載がスタート、2019年にテレビドラマ化し、「ととのう」が流行語に。最新著書『はじめてのウィスキング』(リトル・モア)では、日本ではあまり知られていない「ウィスキング」(サウナ室の中で、白樺などの若木を束ねた「ウィスク」で身体を温めととのえる、伝統的サウナカルチャー)の全貌を解き明かしている。

※エニタイムフィットネス店舗内には、
サウナは設置されていません。