TopicsVol.18

ひとり温泉にいこう!
おすすめのおひとり様温泉旅行

2022.01.31

温泉旅行。なんとすてきな響きでしょうか。列車やバスに揺られて秘湯を訪れ、静かな宿で心尽くしの料理をいただく。お酒はほどほどにして湯に浸かる。ああ、温泉に来て良かった。……というのはかなりの理想型。家族や友人と行くなら日程の調整(これが大変でしょう)、予算、就寝時間、料理や宿の好みはバラバラ。温泉に入りたいタイミングさえも違ってくるでしょう。これがもし、ひとり旅なら全てをあなた好みの旅にアレンジが可能です。著書『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』でひとり旅の楽しさを説いた月山ももさんに「ひとり温泉」の魅力を尋ねました。

すべてを自分好みにできるひとり旅

私は温泉宿で過ごす時間が好きです。それも宿泊して、できる限り長い時間、宿に滞在したいタイプです。運転ができませんので、電車やバスを乗り継いでひとりで温泉地に向かいます。温泉だけでなく、普段から山歩きもレストランもひとりで行くことが多いですね。一緒に行く人がいた方が共感もできるし、楽しいんじゃない? と言われることもありますが、旅はひとりでする方が好きなんです。

この世界には「楽しむときは誰かと一緒がいい人」と「ひとりでも楽しめる人」がいるように思います。私自身は「ひとりでも楽しめる人」なのですが「旅や食事は友人や家族と一緒に楽しむのがいい」と、世間では当たり前のように言われていて「ひとり旅が好きで、ひとりで飲みにも行く」と言うと、寂しい人のように思われてしまうことも。
気の合う相手と一緒の旅はもちろん楽しい、それは間違いありません。ですが、ひとり旅には、それとは別の楽しみがあるように思うのです。

ひとり旅は予定、都合、好みなどを他人と合わせなくて済みます。これがひとり旅の一番の魅力だと思うんです。親しい相手と一緒の旅も楽しいけれど、あまり興味を持てない場所に連れて行かれたり、食べたいものやお腹の空き具合が合わないこともあります。普段の食事なら「今回は合わせるよ」と譲り合えますが、旅先では「次いつ来れるかわからないし、自分の好きなようにしたい!」と思ってしまいます。だけどひとり旅なら我慢したり相手に合わせる必要がない。全部自分好みにすることができるんです。

かつては「女性ひとり旅」は何か訳ありなんじゃないかと思われて、敬遠されることが多かったと聞きます。最近はそんなことはないと思いますが、今でも温泉旅館はひとりでは宿泊できないところも多いのです。シングルルームがあるホテルと違って、旅館は「一番狭い部屋が10畳の和室」ということもありますから、広い部屋にひとりで泊まられてはもうけが出ないという事情もあるとは思います。だからこそ、ひとり客を受け入れてくれる旅館は本当にありがたい存在です。
とは言え、泊めてもらえれば何でもOKというわけではなく、例えば夕食会場で騒がしくしているグループの席のすぐ隣に案内され「どうして……?」と思ってしまったこともあります。ひとり客はカウンターや他のお客さんから見えにくい席に通してくれる宿もありますが、予約の時点ではそこまで対応してもらえるかは分かりません。ハプニングが起こるのはたいてい夕食時ですので、部屋食や個室食の宿・プランを選んだり、団体客がいなそうな小規模旅館や、お子さまお断りの大人のための宿を選べば間違いないと思います。

ひとり旅なら、いつだって温泉に

ひとり温泉の良さは、滞在中の時間を好きに過ごせる点です。夜通しお風呂に入れる宿なら、夜中に起きてお風呂に入ってもいい。温泉旅館に一泊するとき、わりと自由な時間って少ないんです。決められた時間に夕食が始まるし、コース料理だと食べ終わるまで2時間ぐらいかかることもあります。時間帯で男女の浴室が入れ替わる宿もあるので、それならば両方の浴室に入りたい。だけどお酒を飲んだら眠くなるし……眠くなったら誰に気遣うことなく寝たい!ひとりなら、そういったわがままな望みをすべて叶えられるんです。

ひとり旅のときは、食事の味や温泉の色やにおい、露天風呂から見える風景なんかをよく覚えているんです。誰かと一緒だと話をするのでその内容に気を取られてしまって、温泉の記憶も「お風呂でこんな話をしたな……」という印象になってしまいます。それはそれで楽しい思い出ではあるんですけれど、料理やお風呂の良さが記憶に残らないことがあるので、少しもったいないなと思ったり。

誰かと一緒の旅行では、スケジュール調整や予算の設定がストレスになることも多いと思います。ですがひとり旅なら、急に思い立って「今から温泉に行こう!」と出掛けることができますし、自分の懐具合に合わせて予算を設定できます。あまりお金をかけられないときなら「安くていい宿」を探すのも楽しいですし、大変な仕事が終わったようなタイミングで「自分へのご褒美」として客室に露天風呂が付いているような宿に泊まるのも自由です。

初心者には地方都市近郊がおすすめ

これからひとり旅を始めてみようと思う人には、周りに何もない山奥の温泉地よりも、新幹線や特急が止まる地方都市が近くにある温泉地を選ぶのがおすすめです。例えば、中央本線の松本駅に近い浅間温泉や美ヶ原温泉。東北新幹線の盛岡駅に近い繋温泉なんかが、ひとりで泊まれる宿も多くて良いと思います。
慣れてくれば秘湯の温泉にひとりで行くのも楽しいですが、最初のうちは「宿にいる時間以外の過ごし方が分からない」ことも多いのです。そんなときに近くの街で本屋さんや喫茶店に寄ったり、駅ビルやショッピングセンターをぶらぶらしたり、普段と変わらないことを旅先でやってみると、疲れすぎないし楽しいんですよね。もちろん、観光したければそれもいいですが、そんなに興味がないのに「せっかく来たんだから」という理由で観光すると、必要以上に疲れてしまうので、ひとり旅では本当にやりたいことだけやるのがいいと思います。それから、大きな荷物はさっさとコインロッカーに入れてしまうと楽です。

新幹線や特急が止まる駅には、出張で来ている人が多いのもおすすめする理由の一つです。飲食店もひとり客に慣れているし、ひとり用のセットメニューがあったりして、ひとりで入りやすい店が多いのです。
ひとり旅を始めたばかりの頃、知らない街の飲食店で夕食を取っていたら、お店の方に「今日は出張で来られたんですか?」と話しかけられたことがありました。そうか、出張ならひとりでご飯を食べていても当たり前だよな、と思って「そうです」と答えてしまったんですが、なんだかとても気が楽になったのです。当時の私は「ひとりでご飯を食べている自分がどう見られているか」が気になって、緊張していたのでしょうね。

私がひとり旅を続ける理由

ひとり旅が好きな人は、気に入った場所には何度でも行きたい人と、とにかく行ったことのない場所に行きたい人に分かれるようです。私自身は気に入ったら何度も行くし、好きな宿には何度でも泊まりたいタイプです。

あと、温泉地は一番の繁忙期はひとり客を受け入れてくれない場合があります。例えば、スキー場が近くにある温泉地だと、夏は泊まれるけれども、冬のひとり客は予約ができないことがあります。私はオフシーズンにのんびり行くのが好きなので、スキー場のある越後湯沢や妙高高原なんかは夏に行くことが多いですし、紅葉の名所といわれる場所への旅は、紅葉シーズンを外して計画するようにしています。

今ではさまざまな場所にひとりで出かけていますが、かつては牛丼屋さんに入ることすらためらっていた時代もありました。ひとりの方が気楽でいいと思っているのに、他人から「ひとりでいるなんて寂しい人だ」と思われることに抵抗があったのだと思います。
ですが「本当に行きたいところならひとりでも行けるはずだ」という思いを胸に、少しずつ「ひとりで行ける場所」を増やしていった結果、歳を重ねるごとに自由に生きられるようになった気がするのです。
コロナ禍の今、密にならないひとり旅はもっと流行ってもいいんじゃないかと強く思います。みなさまもぜひ、ひとり気ままに旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。

月山さんのおすすめひとり旅スポット

■神奈川県 奥湯河原温泉 旅館 加満田

東京から便の良い湯河原温泉の少し奥まった場所にある宿。土曜日でもひとり泊を受け入れてくれ、朝夕共にお部屋で食事をいただける。多くの文人に愛されてきた歴史ある宿。

広い庭を望む露天風呂を、空いているときにいつでも貸切で利用可能。
ひとりで泊まれる部屋も広々としており、縁側も広く、こちらで風呂上がりのビールをいただくのが楽しみ。
朝食は鯵の干物と卵焼き、かまぼこがうれしい。

■岐阜県 奥飛騨温泉郷 平湯温泉 もずも

岐阜県奥飛騨温泉郷の平湯温泉にある全室客室露天風呂付きの宿。夕食では飛騨牛の寿司、しゃぶしゃぶ、ステーキと飛騨牛三昧が楽しめる。平湯温泉は春から秋の間は上高地や乗鞍岳へのバスが運行しており、山歩きを楽しむ人にも人気の高い温泉地。

琉球畳が美しいシンプルな部屋。ベッドルームが併設されている。
部屋付きの露天風呂には洗い場も完備され、平湯温泉の素晴らしい源泉を独り占めできる。
飛騨牛三昧の夕食は部屋か個室でいただける。

■福島県 尾瀬檜枝岐温泉 旅館ひのえまた

尾瀬に近い山あいの秘湯宿、散策後に泊まって疲れを癒やすのに最適。山で採れる山菜やきのこ、そばを使った山人料理(やもうど料理)が珍しくもおいしい。十割そばの「裁ちそば」が特におすすめ。

一般的な和室の客室。トイレ・テレビ・冷蔵庫・Wi-Fiなどが完備されており、秘湯らしからぬ快適さ。
浴室は時間帯で男女が交代となる。
尾瀬や会津駒ヶ岳の登山口に近く、登山の前後に泊まるのもおすすめ。

PROFILE

月山もも
山形県生まれ。温泉宿にひとりで泊まるのが好きで、山麓の温泉宿を巡るうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山を始める。2016年より、ブログ『山と温泉のきろく』に温泉宿への宿泊記、旅の食事や登山の記録などをつづり、3年間で1000万PVを超える人気ブログとなる。ヤマケイオンラインの連載『ひとり温泉登山』のほか、メディアへの寄稿多数。2020年に著書『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)を上梓。
温泉ブログ 山と温泉のきろく

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