TopicsVol.24

カヤックフィッシングの魅力

文・ヘルシアマガジン編集部
写真・鈴木利岳
釣りは愛好家の多い国民的娯楽です。皆さんの中にも、釣りを体験したことがある人も多いのではないでしょうか。最近、人気を集めているのがカヤックで釣りを行う「カヤックフィッシング」です。釣りに適したカヤックは幅広で安定しているため、少々の波では転覆しません。海の上で気持ち良く体を動かせるので、リフレッシュにもなると思います。そして、カヤックを漕いだり、キャスティングを繰り返すことで、結構な運動量にもなります。今回はカヤックフィッシングの魅力をバイファール静岡三保店の酒井耀介さんにお伺いしました。

安定性のあるカヤックで
釣りを楽しむ

静岡県は海釣りが盛んです。この地域では、カヤックフィッシングがだいぶ浸透してきたように思います。バイファール静岡三保店には「普段はショア(陸)から釣りをしているんだけど、カヤックを見かけてやりたくなったんだよね」という方が時折訪れます。きっと、ショアから「楽しそうだなあ」と思ってくれたんでしょうね。

カヤックフィッシングは、カヤックを使って沖に出て釣りをします。私たちのお店がある静岡県の三保ではブリ、カンパチ、ソウダガツオ、シイラ、タチウオ、シーバス、サバ、イカ、マダイ、ハタ、ヒラメ、マゴチなどが釣れます。

シーカヤックというと、細くてすぐに沈(ちん:水没すること)するイメージがあるかもしれませんね。通常のシーカヤックは長さがある割に幅が狭いため、運動性能は高いものが多いですが、やや安定性に欠けますのであまり釣りには適しません。

私たちが取り扱うカヤックは幅広タイプのもので、海でも大変安定しています。船体の座席部分以外が甲板で覆われているクローズドデッキ仕様になっているので、浸水しにくい構造になっています。また、手こぎではなくパドルを使った足こぎボートもあります。足の力は手の4~5倍ありますので、大変推進力が強いんです。初めて乗る方でも簡単に進むことができます。

出発前に10分ほどパドルの使い方などの安全講習をして、スタッフ同行であればそのまま海に出て釣りをすることが可能です。小さなお子さまや本当に不安という方は、タンデムカヤック(2人乗りのカヤック)に誰かと一緒に乗れば問題ないでしょう。

体力面での一番のハードルは、カヤックを海まで引っ張っていくことですね(笑)。これには少し体力がい要ります。海に出てしまえば楽にカヤックを操れると思います。

カヤックフィッシングを楽しんでいる年齢層は50代の方が多い印象です。どうしてもお金がかかりますし、保管場所や大きめの車も必要になります。バイファールのようにシーカヤックをレンタルできる店が全国にありますので、そういう所でまずはカヤックに慣れ親しんでもらい、本当に欲しくなったら購入を考えるといいですね。

若い世代ですとSUP(サップ:スタンドアップパドルボード)を使って釣りをする人が増えています。SUPはサーフボードより少し大きいボードの上に立ち、パドルをこいで水面を進むことができます。膨らませて使うタイプのインフレータブルボードなら持ち運びしやすく、小さな車や電車でも運ぶことが可能です。ただ、水中に沈んでいる部分が少ないので波の影響をもろに受けます。皆さん、海に落ちるのを前提に楽しまれていると思います。見た目よりも安定しているので、楽しそうに釣りをしている人をよく見かけます。

カヤックフィッシングで
気を付けるのは「風」

シーカヤックで海に出る場合は、命に関わりますので、フローティングベスト(ライフジャケット)を必ず着用してください。

シーカヤックで気を付けていただきたいのが天候です。視界が妨げられるほどの雨や雷はもちろんですが、風には特に気を付けてください。予報で凪だったとしても、急に風が吹き、カヤックが沖に流されてしまうことがあります。初めは風に逆らって陸に戻ろうとしても、やがて体力が尽き、ついには遭難してしまうことも。常に天候の移り変わりに注意しなくてはいけません。バイファールでのレンタルの際はカヤックにGPSを取り付けていますので、万が一流されても救助に向かえますが、単独の場合は本当に危険なので気を付けてください。

バイファールではツアーとは別に、カヤックの安全を学んでいただくスクールがあります。例えば実際に海に落ちてもらい、再度カヤックに乗り込む練習をします。海に出て、落ちてしまったときに1人でカヤックに戻れないと危険ですからね。1人で海に出るのは危機予測や危険回避ができるようになってからですね。今はWindyGPV気象予報など、さまざまなサイトで風や波の情報を手に入れることができます。ただ、この情報を正しく分析するには地域をよく知るガイドや上級者と行動を共に海に出て経験を積みましょう。

三保の海は外洋の影響を受けにくいので大きなうねりが出ることも少なく、カヤックフィッシングには向いています。ただ、漁船や大型船の往来が頻繁にありますので、他の船の動きには絶えず注意しなければいけません。もちろん、付近の漁師さんたちも安全に気を使ってくれていますが、人間ですので他の作業をしていると小さなカヤックを見落とすこともあり得るでしょう。カヤックで海に出る際には、旗を立てて注意喚起しています。

海に出れば全てが釣り場。
大物が狙えることも

海に出たら周りの状況を確認して釣りを始めましょう。釣りの経験のない人でも安心してください。基本はルアーを落としてボトム(底)を取り、ゆっくり巻くだけです。カヤックフィッシングでは主に、ジグと呼ばれる金属製のルアーを使うことが多いですね。魚はジグを餌だと思い、近づいたときに反応します。私たちが手で物を触るように魚は口を使うのです。それで、ジグに付けたフックに魚が掛かるというわけです。ジグの他にリアルに魚を模したプラグやタイラバ(タイを釣るために特化したルアー)などを使えば、さまざまな魚を狙うことができます。また、シーズンによっては餌を使ってアマダイなども狙えます。

バイファールでは竿やリールなどの釣り道具一式を貸し出していますが、ご自身の道具で釣りをしたい場合は竿であれば6フィート(1.8メートル)くらいの短いものでM(ミディアム)くらいの硬さ、リールサイズは3000番台程度でよいと思います。このタックルでメーター級のブリなどは釣ることが可能です。釣りで注意してもらいたいのがパドルを流さないことです。つい、魚の引きに夢中になってしまいパドルを流してしまうことがあるんです。足こぎボートなら帰ることができますが、手こぎボートでは漂流してしまいます。最低でもグループに一つ予備のパドルを積んで海に出てください。

ショアで釣りをする人は地形がどうなっているかある程度理解していると思います。ただ、カヤックは常に波の影響を受けますので結構流されていくんですね。ですから、「今、どんな地形かな…」と、常に気にしなければいけません。ボトムを取り、今自分がどこにルアーや餌を通しているのかを把握しなければ、いくら魚群探知機を使って魚がいる場所がわかっても見当違いのことをしている可能性があります。釣れる人は常にルアーの位置を把握し、自分がどこで何をしているかが分かっているように思いますね。

バイファールでのレンタルはカヤック、パドル、フローティングベスト、釣り道具一式があります。ですので、基本的には道具は何も必要ありません。ただ、日差しにずっとさらされるので帽子や日焼け止め、飲料水などは必須です。特に日差しの強いシーズンは体温調節がかなり重要ですね。

冬は落水したときが危険です。着膨れしていると、服が水分を含んで重くなり船に上がりにくくなります。また、体が濡れて風に吹かれれば、あっという間に低体温症になる可能性がありますので、落水時は速やかに陸に戻ってください。冬場は落水に備えてウエットスーツやドライスーツなどを着た方が安全ですね。

安全面を第一に考えてカヤックフィッシングを楽しんでいただけたら、楽しさはすぐに伝わると思います。興味のある人はレンタルで始め、講習を受けてから釣りに出てみてください。経験を積むと、さらに楽しさが見えてくるでしょう。海や風景の美しさ、心地よい風、魚が釣れると胸が躍るでしょう。大物を釣り上げたときの喜びはかけがえのない思い出になります。

なんといっても、カヤックフィッシングの楽しさは機動性にあります。車に積んで日本中さまざまな所でカヤックフィッシングを楽しむことができるんですから。地域が違えば釣れる魚も変わってきます。これがカヤックフィッシングの醍醐味だと思います。安全にカヤックフィッシングを楽しむためにも、日々のトレーニングで体力や筋力を適度に身に付けましょう。そして時には海に出て、釣りの楽しさやカヤックを漕ぐ気持ち良さを体感してみてください。