自分にぴったりのスーツやジャケットを作りたいけれど、「スーツをオーダーするって値段が高そうだな…」と思っている人は多いのではないでしょうか。「イージーオーダー」では手頃な価格帯で体にフィットしたスーツ作りが可能です。今回は『銀座山形屋』銀座店の吉澤博幸さんに、自分の体に合うジャケットのオーダー方法についてお話を伺いました。スーツやジャケットを新調したい方は、自分だけのとっておきのジャケットをオーダーしてみてはいかがでしょうか。運動などで、体型が変わった人にもおすすめです。
ジャケットをオーダーする時の流れ
私たち『銀座山形屋』ではオーダースーツを制作いたします。男女に対応しておりますし、ジャケットやコート、パンツ、シャツなどのオーダーも可能です。
仕立代は各テーラー(仕立て屋)によって設定されています。『銀座山形屋』ではスーツで4万9000円(税別)~。ジャケットで3万3000円(税別)~。価格がはっきり決まっていないのは、生地やボタンなどのオプションで価格が変化するからです。特に生地で大きく変わります。はじめに「これくらいの金額で」とお伝えいただければ、ご予算に合わせてご提案できますので、ご遠慮なさらずお伝えください。
ジャケットをオーダーする際、以下の8つの工程があります。
1.カウンセリング
2.生地を選ぶ
3.スタイルモデルを選ぶ
4.採寸・サイズサンプルを試着しフィッティング
5.ディテールを選ぶ
6.裏地・ボタンを選ぶ
7.縫製
8.再来店、仕上がりを試着
7以外をご来店いただいた際に行います。カウンセリングから裏地・ボタン選びまででおよそ1時間程度。もちろん、それより長くなる場合もあります。
新しいものを創造するモードの世界と違い、スーツやジャケットを作るテーラードの世界は文化、時代、国を超えて普遍的な美の形を継承しています。それらの上にスーツの形が成り立っていると私は思っています。ですので、テーラードで作るスーツやジャケットのデザインは、あまり時代には左右されません。
テーラードにはフルオーダー、イージーオーダー、パターンオーダーという3種類があります。フルオーダーは採寸を行って型紙を作り、手縫いでスーツを仕立てます。すべてお客様のオーダーに合わせるのでお値段も張ります。最近多いのがパターンオーダー。こちらは既製品をベースに着丈、袖丈、ウエスト、肩幅などを調整しますので、お値段もお手頃です。
現在、『銀座山形屋』で行っているのは、その中間に位置するイージーオーダーです。パターンオーダーの調整に加え、体型補正が入ります。
大切にするのはコミュニケーション
スーツやジャケット作りで大切にしているのが、お客様とのコミュニケーションです。なかでも重要視しているのは会話の初めの数ターン。その時にどういう方なのかを把握するよう努めています。ここで、テーラーがお客様の個性をつかめないとなにも提案できません。たとえば20代の方に50代向けのスーツを着せたらアウトですよね。やはり、その人の雰囲気、社会での立場、年齢に合ったスーツというものは存在します。
テーラーからすると、目の前にお客様がいるだけで、さまざまな情報が入ってきます。チョイスする言葉、話し方、イメージなどから、テーラーの目を通して「どんなスーツがお似合いになるのか」を計算した上でご提案いたします。「お客様の雰囲気を掴む」ということも仕事の一つだと私は思っています。
まずは生地選びです。『銀座山形屋』の店舗には数千種類のサンプルがあります。オーダーの際、まずは使用する「季節」と「シーン」をお伺いします。理由は、生地に向き不向きがあるからです。例えばラフな印象を与える生地でフォーマルジャケットを作ると、その人自身がよく見えません。スーツ、ジャケットとしての成功は「季節」、「シーン」に加えて「人柄」、「雰囲気」の4つがうまく組み合わさった状態だと思います。
生地の後は、スタイルモデル選びです。『銀座山形屋』でご用意するモデルは、
「サヴィルロウ・ドレープ」(立体的で重厚なバストボリューム)
「ニューブリティッシュ」(力強さを感じさせるテイスト)
「イタリアンクラシック」(シルエットが美しい洒脱なデザイン)
「ニュートラッド」(絞りの少ないボックスシルエット)
の4つです。
実際に、モデルサンプルを羽織って決定します。
ジャケットは体のクセをカバーできる
そして、生地、スタイルが決定した後に採寸をしていきます。基本的な採寸と共に、体のズレなどをオーダーシートに記入します。人の骨格はそれぞれ違います。イージーオーダーでは、ズレに合わせて細かく調整することが可能です。例えば人によって、左右の肩の高さが違う場合があります。歩き方や長年の癖で骨格にズレが生じてしまうのです。私たちは医者ではないので体のズレを治すことはできませんが、服でカバーすることができます。
また、今後のトレーニングなどによって体のサイズが変わる予定の方は、採寸の際にご相談いただければ少しだけ腕周りなどを大きく、など調整しておくことも可能です。採寸したデータは、『銀座山形屋』では、永久に保存しています。
さあ、ここまで来たらあと一息です。ディテール選び、裏地・ボタン選びの工程です。 選んだ服地、体型とのバランス、そして出来上がりをイメージしながら、襟・ポケット・袖口・ベントを決定します。ベントとはジャケットの裾にある切れ込みです。
ジャケットはボタンで印象が変わります。料理もスパイスで味が変わるでしょう。それと同じで、ボタンは細かな部分ですが、全体の印象を決める重要なポイントです。『銀座山形屋』ではオプションでナット(ヤシの実)ボタン、シェル(貝)ボタン、ホーン(水牛の角)ボタン、革ボタンなどもご用意しております。これらのボタンは天然物なので、その色柄は微妙に異なっています。そのため、世界にひとつとして同じものはありません。最後に裏地を選べばオーダーは終了です。
このデータを国内の縫製工場に送り、職人が仕上げていきます。通常、縫製は通常2~3週間ほどかかります。
自分だけのジャケットを作る楽しみ
ご自身が客観的にどう見られるかを知るのは大事なことだと思います。身体的特徴、醸し出す雰囲気はそれぞれ違う。そのイメージをご自身でよく理解していれば、あとは服をチョイスするだけでいい。実を言うと、私たちテーラーの仕事はシンプルで「お客様に服をマッチさせればいい」んです。それがテーラーである私たちのサービスだと思います。
既製品の多くは「流行」というフィルターを通して作られています。また、漠然とした「普通」と言われるものを目指して作っています。しかし、イージーオーダーでは自分の体や雰囲気にあったスーツやジャケットを作ることが可能です。その可能性は無限大と言ってもいいでしょう。数千種類の生地×スーツの形×裏地×ボタン×襟×その他……。お客様とテーラーが一緒になって、一着のスーツやジャケットを作り上げていくのです。
イージーオーダーは少々お値段が張ります。吊るしのスーツですと、2着買えるかもしれませんね。しかし、ご自身の体と雰囲気にマッチしたものが、この価格で手に入るなら、なかなか良いのではないかと思います。
テーラーはお客様のパーソナリティに合わせて、生地や形を選びます。接客の時間もお客様ごとに違います。イージーオーダーですと少なくても1時間。既製品のジャケットなら早くて数分でしょう。テーラーは商品を勧めるのが仕事ではありません。「お客様を知ること」が仕事なんだと思います。目の前にいるお客様に対して、適切なご提案をすること。それが私たちの仕事です。
ですので、出来上がったジャケットも、人が前に立ちます。“服が歩いているように見える”と失敗です。服はメインディッシュではありません。あくまでも着る人の引き立て役です。「あ、向こうから雰囲気のいい人が歩いてくるな……」と、思われるくらいがいいですね。
PROFILE
銀座山形屋 銀座店
03-3571-2986
https://ginzayamagataya.jp/
※値段は別途消費税がかかります。また、お仕立て方法によっても値段が変わります。詳細価格はお店にお問い合わせください。