ReviewVol.28


トレーニングのやる気みなぎるモチベムービー

『ロッキー』

文・井上英樹 絵・町田早季

先日、夜のエニタイムフィットネスで取材をしている時のことだ。音楽を聴きながらフリーウエイトにいそしむ方に「何を聴いているんですか?」 と尋ねると、「やっぱり、気分が上がる曲ですね。ロッキーのテーマとか」とのこと。トレーニングと『ロッキー』は、定食屋と生姜焼き定食くらい相性が良い。

だが、若い世代にシルヴェスター・スタローン主演の『ロッキー』の話をすると、「名前は知っているけど、見たことはない」という人が多い。考えてみると、『ロッキー』の公開は1977年で半世紀も昔の映画なのだ。とはいえ、『ロッキー・ザ・ファイナル』の公開は2007年、スピンオフ作品『クリード』シリーズの最新作が2023年(おそらくこれからも続く)なので、多くの人にとってロッキーの名前は「耳に馴染み」があるだろう。冒頭の方が言うように、気分が上がるので、見ていない人にはぜひチェックしてもらいたい映画だ。

『ロッキー』は売れない役者だったスタローンが狭い部屋で自ら脚本を書き、主演し、大ヒットしたまさにシンデレラ・ムービー。彼には言語障害があり、駆け出しの頃は苦労したそうだ。オーディションを受けても仕事がもらえず、やっと役を得てもセリフがほとんどない仕事ばかりだった。1975年、クリーブランド・コロシアムで行われたモハメド・アリの防衛戦を見たスタローンは、挑戦者チャック・ウェプナーの姿に衝撃を受けた。下馬評ではアリの圧倒的勝利を多くの人が疑わなかったが、ウェプナーは15ラウンド途中まで持ちこたえた。しかも、アリからダウンさえ奪ったのだった。ウェプナーに自分の姿を重ね合わせた興奮の収まらないスタローンは、3日で脚本を書き上げ、熱心にセールスをして、主演の座を得た。そんな熱量高めの『ロッキー』を見ると、気分が上がり、トレーニングしたくなるだろう。特に、気分が落ち込んだ時には最高のモチベーションアップを提供してくれる。

ROCKY (1976) Official Trailer MGM
©︎1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC

ロッキーは、昼間は借金取りとして働きながらボクシングをしていた。しかし、ボクサーとしての自覚はなく、たばこを吸い、酒を飲む自堕落な生活を送っており、トレーナーからも見放されていた。しかし、ロッキーには一つだけ、心のよりどころがあった。それはペットショップの店員のエイドリアンだった。ロッキーはいつも不機嫌な顔をしているが、エイドリアンにだけは笑顔を見せる(あんまり相手にされないのだが)。ロッキーはすでに30歳。もはやボクサーとして大成する見込みはなかった。しかし、世界チャンピオンのアポロ・クリードの相手が怪我をし、代わりの対戦相手にロッキーが選ばれた。まるでアメリカンドリームを象徴するかのように、無名の彼に大きなチャンスが訪れる。

『ロッキー』はボクシングを題材とした映画だが、「ボクシング映画」ではない。底辺から這い上がろうとする人たちの群像劇だ。冒頭こそ試合シーンがあるが、それ以降はトレーニングや試合以外の人間関係や日々の暮らし(ごろつきライフ)が占める。映画後半でロッキーにエンジンがかかり、トレーニングを始める。朝4時に起き、生卵を5つ飲み干し、ランニングをし、生肉工場の肉の塊を素手で殴る(食品衛生上NGだが)。体が仕上がってくる段階になって、あの有名なロッキーのテーマ曲『Gonna Fly Now』が流れ始める。トランペットのファンファーレが気分を上げる。もう、観客全員がロッキーの気分だ。懸命なトレーニングシーン、肉を殴る姿、街の人々に祝福されながら走るロッキー。片手腕立て、全力疾走、フィラデルフィア美術館の正面玄関階段を軽々と上り切り、両手を上げて歓喜するロッキーの姿は、見ている者に希望と勇気を与える(ちなみに、ロケ地の階段は「The Rocky Steps」と呼ばれている)。

しかし、試合直前にロッキーはパートナーのエイドリアンに「勝てるはずがない」と言い出す。まあ、冷静に考えたらそうだ。相手は世界チャンピオンなのだから。けれども、ロッキーはトレーニングにより自信と尊厳を取り戻していた。「試合の最後までリングに立っていられたら、俺がごろつきじゃないことを証明できるんだ」とエイドリアンに言い試合に向かう。早いラウンドでロッキーはKOされると考えられていたが、その予想を裏切り善戦する。何度ダウンしても立ち上がり、最終ラウンドまで戦い抜く姿は、多くの人に感動を与える。最近、ジムに行ってないなあ。そんな人は、『ロッキー』で、トレーニング魂を補充しよう。

『ロッキー』鑑賞後におすすめのトレーニング

  • 有酸素運動(町を走っている気分で)
  • ケーブルマシン(重いパンチを鍛えよう)