PeopleVol.17

大分県姫島村役場 健康推進課 仲道照子さん

運動習慣のない島の中に
フィットネスジムを作る

文・井上英樹(MONKEY WORKS) 写真・横山英規

コロナ禍に、オーストラリアから大分県の姫島村に移住した仲道照子さん。大分県姫島村役場 健康推進課で働き始め、島の人々に運動習慣がないことに気が付きました。仲道さんは、エニタイムフィットネス本部の株式会社Fast Fitness Japan(以下、FFJ)との協定締結に奔走し、「ヘルシア・アイランドプロジェクト」を活用して島に初のフィットネスジムを作りました。地域の多くの人々と協力し、姫島村にリサイクルマシンを導入した仲道さんに、この取り組みについてお話を伺いました。

Profile

仲道 照子(ナカミチ テルコ)

2019~2020年に、ヨガライセンス取得のためオーストラリアへ渡る。帰国後の2020年6月から姫島へ移住し、現在は姫島村役場 健康推進課 課長を務める。看護師・保健師・全米ヨガアライアンスRYT200の資格を持ち、姫島の健康増進に取り組む。

健康な方々が暮らす島だと
思っていたら……

仲道さん、姫島村役場での具体的なお仕事について教えてください。

私は姫島村役場の健康推進課で課長をしています。保健師の資格を生かして、住民の健康増進を担当しています。コロナ禍では主にコロナ対策を行っていました。実は姫島村に来る前は、東京やオーストラリアで暮らしていたんです。子育ても一段落し、自分の時間を大切にしようとオーストラリアに渡り数年間過ごしていましたが、友人から「姫島村に保健師がいなくなるかもしれない」という話を聞き、帰国して姫島で働くことを決めました。

保健師から見て、島民の健康に対する意識はどうですか?

大分県には「お達者年齢」という独自の指標があって、健康寿命の代わりに、市町村ごとの高齢者の健康度を示しています。このデータを見ると、姫島は元気な高齢者が多いとされていました。姫島村は自立している高齢者が多く、入院から最期を迎えるまでの期間が短いことから、県内でも「健康な人が多い島」という印象がありました。ところが、意外な事実が分かりました。

大分県は「健康寿命延伸プロジェクト」として男女ともに健康寿命日本一を目指すため、各市町村で取り組みやすい健康指標を用いて現状を「見える化」し、市町村ごとのランキングを作成しているのですが、その調べによると姫島村は県内18市町村中、男性は健康度2位である一方で、女性は17位と下位に位置していたのです(令和4年1月公表)。市町村別の順位では、男女ともにメタボリックシンドロームの該当者が多く、特に女性は健康リスクが高いことが判明しました。

さらに、肥満や高血圧や高血糖の方、糖尿病のリスクが高い方も多く、運動不足の方の割合も県内で最も高い状況でした。つまり、元気な高齢者は多いけれども、不健康な人も少なくないということが見えてきたのです。この結果から、地域の健康課題に改めて気付き、健康増進に本格的に取り組もうと決意しました。

イメージと現実に大きな乖離があったのですね。保健師としてどのような対応をされましたか?

地域での身体活動を促進しようと運動ができる場所を調べてみましたが、設備が整っていないのが現状でした。村には一応スポーツ施設はあるものの、トレッドミルなどの機器が数台軽スポーツセンターに置かれているだけの状態で、利用者も月に数名程度。

そこで、「なぜ運動しないのか」を明らかにするためにアンケート調査を実施しました。住民からは「運動施設がない」「こうした設備がほしい」といった要望が寄せられました。そこで、似たような規模の小さな島がどのように健康促進に取り組んでいるのか、情報収集を始めました。

その中で、FFJさんが2018年に沖縄県の座間味村という離島にマシンを提供した「ヘルシア・アイランドプロジェクト」という取り組みを知りました。「これはいいな」と思いましたね。都会と同じ設備を整えるのは難しくても、似た規模の島の取り組みから健康寿命や運動促進の方法を学ぶことができると感じました。

島にフィットネスジムを
作ろう

島にフィットネスジムを作るイメージは最初からあったのですか?

当初、アンケート調査で見えた住民の要望は「運動公園が欲しい」というものでした。運動公園があれば、子どもたちが遊ぶだけでなく、高齢者が見守りながら運動できるなど、世代間の交流や相乗効果が期待できるからです。しかし、現在島にある「運動公園」は野球場やテニスコートがあるだけで、都心のようにウオーキングやストレッチができる屋外の運動器具はありませんでした。

近隣の村や市では、こうした運動施設の整備で移住者や観光客を呼び込み、地域活性化につなげている例もあります。姫島の魅力を増やすためにも、既存の施設を活用しつつ当時の「ヘルシア・アイランドプロジェクト」に参加して、フィットネスの要素を取り入れられればと考え、FFJさんに連絡しました。すると、「ご協力できることはします。一緒に考えましょう」と快く応じていただけたのです。

健康体操の導入もされたと聞きましたが?

健康推進課とFFJさんとのディスカッションの中で、ケーブルテレビで放送されている運動コンテンツの話になりました。テレビでは毎日流れていますが、エニタイムフィットネスの方でも滋賀県で体操を作った経緯(MLGs体操)があると聞き、ぜひ姫島でも作ってくださいとお願いしたんです。こうして誕生したのが「高齢者向けの健康体操」と「子ども・ファミリー向けの姫島キツネ体操」です。これらはケーブルテレビでも放送され、住民が自宅で気軽に運動できる環境が整いました。

健康増進に関する協定」をFFJさんと締結し、エニタイムフィットネスからマシンの寄贈も受けることができました。当初は姫島村内でのエニタイムフィットネスの知名度が低かったのですが、徐々に地域外からも注目され、村民も「すごい取り組みをしている」と感じるようになってきたように思います。

完成したフィットネスジムは仲道さんのイメージ通りでしたか?

令和5年4月に第1弾のマシンを寄贈いただき、「姫島村軽スポーツセンター」がようやく完成しましたが、完成までにはさまざまな苦労がありました。軽スポーツセンターのリノベーションを終えて無事にオープンできたことは本当に感慨深いです。

マシンをいただいて終わりではありません。施設やマシンのメンテナンスも必要ですし、何よりも島民の方々に実際にマシンを使ってもらうことが重要です。少しずつ利用者が増え、フィットネスジム設立前は運動率が0.3%だったのが、現在では3.3〜4.8%にまで上がっています。また、マシンの使い方が分からない方のために、使用方法を説明する動画も作成しました。

フィットネスジムの宣伝にはチラシやケーブルテレビを活用しています。村の健康体操は1日に6回も流れており、運動指導をしてくれる増田さんも登場しています。増田さんはすっかり地域の人気者で、「体操の人だ!」と声をかけられることも多いそうです。

さらに、姫島では高齢者に向けた、生活機能を改善するためのプログラムを実施する短期集中予防サービス「通所型サービスC」を令和5年から導入しております。それに伴い、令和6年度からは、このサービスの卒業生がフィットネスジムに通い、さらなる健康維持やレベルアップに挑戦する予定です。姫島村軽スポーツセンターが地域の健康増進の場として成長していくのが楽しみです。

姫島村で制作されたメイキングムービー

これからの島の姿を
想像する

今後、姫島村がどんな場所になっていけば良いと思いますか?

姫島全体が「健康の島」として知られ、軽スポーツセンターが運動の拠点となることを目指しています。そのためにはいろいろと工夫が必要です。例えば、ジム内に気分が上がる音楽を流したり、トレーニング指導を行う体制も整えていきたいと思っています。今後、FFJさんと協力し、姫島村で運動指導ができるトレーナーの養成を進める予定です。

また、利用者の皆さんに「また来てね」「明日も待っていますよ」と声をかけることでリピーターを増やし、利用率を上げたいとも考えています。こうした親しみやすい環境づくりが大切だと思っています。多くの人が集まり、姫島がより活気あふれる場所になることを目指して、引き続き取り組んでいきたいですね。

仲道さんのパートナー(オーストラリアから移住)が2024年5月に「OZI CAFE」を姫島でオープン