PeopleVol.16

SONアスリートアンバサダー三上隼人

今、大切にしたいのは
ずっとアスリートでいるということ

文・井上英樹(MONKEY WORKS) 写真・香西寛司

株式会社Fast Fitness Japan(以下、FFJ)のマーケティング部で働く三上隼人さんには、生まれつき軽度の自閉スペクトラム症(自閉症)があります。彼はスペシャルオリンピックス日本(知的障がいのある人たちにさまざまなトレーニングと競技会を提供し、社会参加を応援する国際的なスポーツ組織。以下、SON)のアスリートで、世界中のスペシャルオリンピックス(以下、SO)から選考された12名のアスリートが、NBAとWNBAの選手らと共に試合をする『NBA Cares Special Olympics Unified Sports Basketball Gam』(ボージャングルズ・コロシアム)にSONから参加しました。国内外で活躍する三上さんは、2024年第4期スペシャルオリンピックス日本(SON)アスリートアンバサダーに就任しました。

アスリートアンバサダーは、アスリート自身がSOの活動で経験したことや思いを発信するなど、年間を通してさまざまな活動を行います。会社員、バスケットボールプレーヤー、SONアスリートアンバサダーなどの顔を持つ三上さんにお話を聞きました。

Profile

三上 隼人(ミカミ ハヤト)

1990年5月、新潟県生まれ、東京都育ち。3歳に自閉症と診断され、7歳でスペシャルオリンピックス日本(SON)のバスケットボールプログラムと出合う。日々のプログラムやトレーニングを通し、2013年と2019年に開催された大会で、SONから代表選手として派遣される。株式会社Fast Fitness Japanの社員かつ、2024年第4期SONアスリートアンバサダーとして、選手兼広報活動を手掛けている。

実はバスケより、
ラグビーが好きなんです

SOではずっとバスケットボールをしているそうですが、昔からバスケが好きだったのですか?

実を言うとバスケットボールより、ラグビーが好きなんです。こういうのは正直に言った方がいいと思うんです(笑)。高校生の頃は、健常者との混成チームでラグビーをしていました。競技としてはラグビーの方がしっくりきていたんですね。ただ、ずっとバスケもやってきているわけなので、嫌いではないです。

私のバスケとラグビーの成長速度を比較すると、ラグビーの方が圧倒的に速かったんです。SOヨーロッパなど一部の地域では実施されているのですが、SONには競技としてラグビーがありません。もしあれば、ラグビーで無双できる自信があります。希望としては、SONでラグビーが生まれるといいなって思います。ただ、もちろんバスケも好きですよ(笑)。

自分のバスケの競技レベルが上がったなと思ったのは最近ですね。今、34歳なんですけど、30歳くらいからです。これまでは練習していても「うまくなったなあ」という実感がなかったんです。昔から、同じメンバーでずっと競技をやってきて、チームに特別うまい人がいるわけではありませんでした。でもSONの知名度が上がり、今はさまざまな子が入ってきています。結構上手な子が多くて、その子たちに負けないように練習をした結果、競技力や技術面が向上したかなと思います。

競技レベルの向上はチームメイトのレベルアップも大切なのですね。

そうです。やっぱり上手な子たちと一緒にやっていたら、自分自身もうまくなるし、勝つ楽しさも増します。環境が重要なんだと思います。ただ、バスケとラグビーに共通するのは、トレーニングの大切さですね。ラグビーの場合はトレーニングが特に重要でした。体を鍛えること、走れるようになることは、怪我をしない体にもなるということです。そういった経験はバスケでも役立っています。

私はトレーニングが好きです。トレーニングを始めたのは20代前半からです。普段のトレーニングではしっかり記録を付けているので、昨日の自分、先週の自分、1カ月前の自分の力が分かります。記録することの面白さは、過去の自分と今の自分を比較できるところです。以前はがむしゃらにトレーニングをやっていただけで目標はなかったんですが、今はSONのアスリートとしてバスケをしているので、競技に生きるトレーニングをしています。知的障がいの人の中には、運動不足の子や競技に取り組むのが苦手な子もいるんです。そういう子たちにも競技を見てほしい。そして、私自身もSONを通じてサポートしたいと考えています。

アンバサダーとして
自覚が芽生えた

© Special Olympics Nippon

三上さんのアスリートとしての目標は何ですか?

アスリートとしての目標は、ずっとアスリートでいるということです。SOには引退がありません。子どもから高齢者まで参加できる活動団体なので、私が何歳になろうが、本人が希望すれば競技を続けられます。将来的にラグビーがSONの競技になったらやってみたいです(笑)。競技には勝ち負けがあります。もちろん、私も勝ち負けにはこだわりますが、それよりもアスリートとして続けることが重要だと思っています。だからこそ、今後SOの競技に参加するにしても、全員が楽しく競技に参加してハッピーで終わるか、勝ちにこだわってメダルの色を追求するか、どのように関わるか悩む時もあります。

※SOでは、アスリートの可能性が最大限に発揮できるよう、競技会でディビジョニングをおこないます。ディビジョニングとは、年齢、性別、競技能力の到達度などに応じてクラス分けすることですが、ほぼ同じ競技能力レベルで競い合うことにより、アスリートにとって最も効果的な競技環境を提供することができ、アスリート個々人の成長を刺激することができると考えています。日本各地で実施されている練習(スポーツプログラム)においても、各アスリートの競技レベルによってグループ分けを行う等、能力に合わせたトレーニングを実施しているため、運動を始めたいというかたから競技性を高めたいかたまで、幅広く参加できるように取り組んでいます。

FFJの社員としてどんな気持ちで働いていますか?

楽しいですし、同時に社員としての責任を感じています。私は2020年の2月に、腰の手術がきっかけで前の会社を辞めました。その後、ご縁があってFFJに入社しました。そして、2024年7月にFFJで働きながらSON第4期アスリートアンバサダーに就任することとなりました。今は世間にスポーツや競技の楽しさを伝えたいという思いがあります。しかし、ただ伝えるだけではなく、アンバサダーとして自覚を持ちたいと思っています。バスケットボール競技のアスリートとして、プレーや広報活動をしっかり行いたいです。なにより、SON自体を広めたいですね。

これからの抱負をお聞かせください?

たくさんの若い選手たちがチームに入ってきています。若い選手に負けない体づくりをしたいですし、バスケのスキル向上を目指したいです。若い世代の選手たちは本当に上手なんですよ。時代が変わってきた感じがありますね。ぜひ、皆さんにもSONに注目していただき、私たちを応援していただけたらうれしいです。

インタビュー冒頭、バスケよりラグビーが好きという発言をした三上さん。しかし、その発言から、自分の心に正直でありたいという強い思いが伝わってきました。自閉症は対人関係が苦手・強いこだわりがあるといった特徴を持つ発達障がいの一つです。が、始終朗らかで、心遣いができる優しい青年でした。スポーツを通し、SOやご自身の特性である自閉症を知ってもらいたいという三上さん。彼はどんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。
© Special Olympics Nippon

FFJはSONへの支援活動の一環として、当社並びに関係サブフランチャイジー・サプライヤー各社と開催したチャリティーゴルフでの寄付金¥299,000を贈呈しました。贈呈に際してはSON・平岡拓晃理事長をお招きし、寄付金贈呈式を開催しました。

FFJは2016年からスペシャルオリンピックス日本への支援を開始し、知的障がいのある人(アスリート)と知的障がいのない人(パートナー)がチームメイトとなり、エニタイムフィットネス店舗でのユニファイドトレーニングの実施等、さまざまな支援活動を行ってきました。

スペシャルオリンピックス日本公式サイト:http://www.son.or.jp/