YouTuber,アライかずえちゃん
LGBTQ+を支援・応援する
アライという存在
Profile
かずえちゃん
1982年福井県生まれ。ウエディングプランナー、保険会社勤務を経てカナダに留学後の2016年にYouTubeチャンネルをスタート。「LGBTQ+って身近にいる」「あなたは一人じゃない」というメッセージを伝えるため、動画配信や講演活動、オンラインサロン「かず部屋」の運営などコミュニティー交流に力を注ぐ。
カナダで出会った
アライという存在
かずえちゃんがアライという言葉を知ったのは数年前。30歳まで暮らした福井県を離れ、カナダに留学をした時でした。カナダで自分がゲイであることを話しても、周囲の反応は「へえ、そうなんだ!」と、出会った人たちは全く驚く様子もなく、かずえちゃんを受け入れてくれました。2005年、世界で4番目に同性婚を認めたカナダでは、同性のカップルも当たり前に手をつないで歩いていました。ゲイであることを隠して生活していた日本とは全く違い、カナダではとても自由に、そして自分らしく生活することができたのです。そしてLGBTQ+を支援、応援する人たちを「アライ」と呼ぶことを知りました。
実は不用意な言葉で
人を傷つけている
かもしれない
カナダ留学前はカミングアウトしてなかったそうですが、今はいかがですか?
全く隠していません。ですが、初めて会う人に「僕はゲイです」なんて、わざわざ言うこともないです。会話の中で「彼女はいないんですか?」とか、「結婚をしているんですか?」みたいな流れがあるじゃないですか。そんな時は、「実は男性が好きなんです」って言います。
そう返すと、「初めてゲイの人に会いました」「自分の周りにはLGBTQ +の人はいません」と言われることが多い。しかし約11人に1人(左利きやAB型と同じ割合)がLGBTQ+だという調査結果があります。実は身の周りに「いない」のではなく「言えない人」が多いのだと思います。自分から積極的に知識を得たりすることはとても大切だと思いますね。企業なら研修なども必要でしょう。そうすれば、悪意がなかったとしても、日ごろ何げなく使っている言葉で人を傷つけることも減ると思います。
「彼女はいないんですか?」、「体を鍛えて女性にモテるといいですね!」なんて会話はよくあるでしょう。でも、普段、自分が何げなく使っている言葉って大丈夫かな?って考えてほしいんです。自分の周りにLGBTQ+の人が「いる・いない」ではなく「いる」が前提で生活することはとても大切だと思いますね。
ここ数年でLGBTQ+という言葉はずいぶん認知されているように思います。
たしかに、LGBTQ+という言葉の認知は広まってきています。ですが、まだ身近な存在ではない。「彼女(彼氏)いないの?」って聞かれて「いないです」って答えが返ってきても、実は「本当のことを言えない人」がいるかもしれないことを想像してほしい。
この社会にはLGBTQ+の当事者が当たり前にいるという前提で生活をすると、日ごろ何げなく使う言葉や言動が変わってくると思います。「男のくせに」とか「彼氏(彼女)いるの?」「結婚は?」なんて、不用意に言わなくなるでしょう。改めて、自分が発している言葉を見つめることは大切ですね。
反対に「彼女いないの?」という質問が「パートナーさんはいないの?」とか「恋人はいるの?」という表現だとホッとします。男だから、女だからと決めつけていなかったり、相手の立場を想像したり気遣いのあるコミュニティーは安心感があります。美容院やジムでもそんな場所はまた行きたいなって感じますね。だけど、そういうフラットな場所を急につくろうとしても難しいでしょうね。コミュニティーにいる人たちが、何事も決めつけないフラットな場所になるように心掛けていく姿勢があれば、利用者も「ここって居心地が良いな」、「この場所は安心するな」って感じるはず。時間はかかるかもしれないけれど、誰もが安心できるコミュニティーにつながっていくのかなと思う。
温かい言葉で世界は変わる
かずえちゃんはダイバーシティー推進に力を入れる三洋化成工業(京都)に入社し、社員研修やワークショップなども行っているそうですね。
2020年8月に「かずえちゃん」として入社しました。入社式にはスカートをはいて行ったんですよ。それには理由がありました。LGBTQ+は一括りに語られることが多いのですが、僕はゲイ(G)の当事者であって、トランスジェンダー(T)の当事者ではありません。トランスジェンダーの方は、ゲイの僕が経験した生きづらさとはまた別の生きづらさを持っているんですよね。性自認(自分が自分の性別をどう認識しているか)と身体の性が一致しないトランスジェンダーの方たち。例えば、生まれた時の身体の性は「男性」で性自認は「女性」のトランスジェンダーの方とYouTubeの撮影などで一緒にいると、周りから怖くなるくらい奇異な視線を向けられます。
毎日あんな視線にさらされたら、僕は外になんか出たくないなって思ったほどです。そこで何か自分がアライとしてできることはないのかなと考え、僕は入社式にスカートをはいて行くことにしました。
家を出る前は本当に怖かった。スカートではなく、パンツをはいて会社に行き、着替えたらよいかとも思いました。だけど、それでは意味がありません。それに、スカートをはくことが悪いわけではないのですから。自分にそう言い聞かせて、会社に向かいました。周りからどんな目で見られているんだろうと、怖くてずっと下を向いていましたね。
京都のコンビニに立ち寄った時のことです。店員さんに「めちゃくちゃ素敵ね!」って言われたんです。あの朝、その店員さんの一言にどれだけの勇気をもらったか。そしてその一言にどれだけ救われたか……改めて言葉の持つ力を感じた出来事でした。
「自分らしく生きよう」と言うことは簡単だと思います。しかし、その前提として「自分らしくいられる環境」がなければ、「自分らしく生きる」ことはできないと強く感じます。アライとは、そういう社会をつくるために一歩を踏み出す勇気と姿勢なのではないかと思っています。まさに、コンビニで声を掛けてくださった店員さんのような人ですよね(笑)。
LGBTQ+の人たちとはどのように関係性をつくっていけばいいでしょうか。
自分の言葉や振る舞いに対して、「これでいいのかな?」と、自問自答することも必要だと思います。SNSなどの文字を含めて、言葉に責任を持ってほしいですね。そして、もし傷つけてしまったら「ごめん」って謝って、次から気をつける。
誰だって間違えます。僕だって「あの言葉大丈夫だったかな……」なんていうことは、結構あるんです。言葉は万能ではありません。悪意を持って使った言葉ではなかったとしても、人によって受け取り方はさまざまです。しかし、間違えたらどうしようと思って会話を避けてしまうことや話題にしないことは、何の解決にもならないと思います。
結局、失敗と反省の繰り返しだと思うんです。LGBTQ+のことでなくても同じですよね。分からなかったら、「これどうなの?」って、お互いを尊重し、気軽に聞ける関係性がつくれたらいいですね。