PeopleVol.12

自転車は人生
サブスクサービスで
自転車文化を根付かせたい

People Vol.12 株式会社Bike is Life代表取締役  山田 大五朗さん

街で見かけたシンプルだけどかっこいいスポーツバイク。乗っている人に聞いてみると、Bike is Life(バイクイズライフ)のサブスクリプションサービスを利用しているとのこと。壊れたらメンテナンスに来てくれて、盗まれてもすぐ新しい自転車を届けてくれるという、自転車に乗りたいけど手入れが面倒という人には理想的なサービス。自転車の新しいビジネスモデルについて、代表の山田大五朗さんにお話をうかがいました。

People

山田 大五朗(ヤマダ ダイゴロウ)
株式会社Bike is Life代表、サイクルコーディネーター。1978年、福岡県生まれ。17歳の時に自転車競技と出会い、プロを目指して21歳で渡仏。エクス=アン=プロヴァンスのクラブチームに所属し、2シーズンを走破。帰国後、25歳でプロ活動をスタート。29歳でワールドカップに参戦し、日本代表選手に選ばれる。以降、3年連続で日本代表として世界選手権に出場。32歳の時に、国内最長レースである24時間耐久レースで優勝。このレースを最後に引退し、現在は自転車競技の普及と若手育成活動、サイクルイベントの主催等を行う。2019年に株式会社Bike is Lifeを設立。
https://bikeis.life/

1.ヨーロッパで経験した
自転車文化を日本にも

山田大五朗さんは元プロMTB(マウンテンバイク)ライダー。世界選手権の日本代表でもありました。日本では数少ないプロとして活躍された山田さんが立ち上げた会社はどんな会社なのでしょうか。福岡県朝倉郡筑前町にあるBike is Lifeのクラブハウスにおうかがいして、まずはBike is Lifeが目指すものについてうかがいました。

●Bike is Lifeのサービス内容とコンセプトについて教えてください。

オリジナル自転車の製造販売と、貸し出しのサブスクリプションサービスを行っています。さらに、自転車の良さを伝えるためにクラブハウスの運営をしています。その他にも、行政の方と一緒にサイクルツーリズムや、自転車の魅力を伝えるイベントの企画運営も手掛けています。

わたしはマウンテンバイクの選手でしたが、プロを目指していた時に留学したフランスでは自転車が文化として生活に根付いていました。レースやツーリング、家族でのお出かけと、子どもたちから高齢の方まで誰もが自転車を楽しんでいて、そういう文化がとても素晴らしいと思い、いつかこういう自転車文化を日本でも根付かせたいとずっと考えていました。それを実現するために会社を立ち上げました。

コンセプトは、自転車のライフスタイルブランド、自転車を文化にする会社です。

●ヨーロッパは自転車専用道路が整備されていて、リゾート地に行っても自分の自転車を持って旅行している方をよく見かけます。日本ではそういう楽しみ方をしている人はまだ少ないですね。

日本では、皆さん自転車には乗れますが、多くの方は自転車を「安価な移動手段」として捉えています。もちろん、それも自転車の良いところのひとつなのですが、自転車にはもっと楽しいことがたくさんあります。その魅力に触れる機会が少ないので、まだまだ文化として根付いていないのだと思います。ただの移動手段としてではなく、自転車の楽しみ方をもっと知っていただきたいと考えて活動しています。

●具体的にはどのような活動をされていますか。

ツール・ド・フランスが有名ですが、フランスでは自転車競技がとても盛んです。イタリアやスペインもそうですが、自転車をスポーツとして純粋に楽しむという文化があります。一方オランダはとにかくインフラが整っているので、自転車が楽しい移動手段、便利な移動手段になっています。加えて競技もしっかりやっています。

日本はどうかというと、まだインフラが整っていないし、自転車を楽しむ文化もありません。足りていないこの2つをバランス良く育てていきたい。まずは行政の方と一緒にサイクルツーリズム事業を通してインフラ整備の必要性をお伝えしています。

自転車を楽しむ文化を育てるための取り組みとして「キッズスクール」をやっています。子どもたちが自転車に上手に乗れるようになるためのスクールから、競技として楽しむためのスクールの2段階のクラスがあります。インフラを整えつつ、人を育てていきたいと考えています。

●インフラが整っていないと安心して自転車に乗れないですね。自転車と歩行者の事故も増えているようです。

もともと日本は自転車を生活の足として使っていたのですが、車が普及した時に自動車との接触事故が増えたため、自転車を歩道に上げたという歴史があります。ところが最近はクロスバイクやロードバイクが流行ってきて、また電動自転車も増えてきたため自転車の速度が上がり、今度は歩行者との速度差が生まれて重大事故が起きやすくなりました。そこで車道を走るようにした、というのが今の状況です。

なので、今は混乱期だと思います。ママチャリもロードバイクも道路交通法の解釈では車道を走ることになっていますが、歩道を走ってもいいですよ、ということになっています。そうすると、車道の信号に従えばいいのか、歩道の信号に従えばいいのか、それぞれの人の判断になり、結果として自転車が縦横無尽に走って危険な状況が生まれています。

●東京はオリンピック・パラリンピックを契機に自転車専用レーンが整備されました。

自転車専用レーンの整備が進み、自転車が車道を走れるようになったのは大きな一歩ではあります。わたしは25年くらい自転車に乗っていますが、以前は車道を走っていると危ないから歩道に上がれ、とクラクションを鳴らされていましたが、最近はそういうことはなくなりました。歩道に上がれと言われていた時代が長かったので、そこからすると認識は変わってきたと思います。ただ、まだ圧倒的にインフラが足りていません。

2.「使っていても壊れない」
サスティナブルな自転車社会へ

自転車を安価な移動手段としてだけでなく、毎日を豊かにする乗り物として生活の中に根付かせたい、そのために起業した山田さんですが、そもそもなぜプロのMTBライダーを目指したのでしょうか。自転車との出会いとプロになるきっかけをうかがってみました。

●コロナ以降自転車に乗る人が増えているように感じますが、山田さんがプロになられた頃はまだスポーツとしての自転車は日本では盛り上がっていなかったと思います。なぜプロを目指されたのでしょうか。

小学校6年生の時に第一次マウンテンバイクブームがきて、みんなMTBに乗り出しました。わたしもその時MTBを買いました。高校2年生の夏休みにたまたま乗っていたマウンテンバイクがパンクし、修理してもらいに行った自転車店にレースのポスターが貼ってあったのです。そのポスターを見ていたら店長さんから「レースに出てみたら」と声をかけてもらったのがきっかけです。

そして最初のレースで3位に入賞しました。今考えると高齢の方や子どもも参加していたので、高校生のわたしが体力的に優れていただけなのかもしれませんが、人生で初めて表彰台に立てたことがうれしくて、自転車をやる!と決心しました。そこから九州のレースを転戦し、マウンテンバイクのプロが存在することを知って、プロライダーを目指すことにしました。

フランスでの修行を経て25歳でプロになりました。クロスカントリーマラソンという山の中の120キロのコースを走る競技時間6~7時間の過酷なレースが好きで、フランスのクロスカントリーマラソンで日本人初の完走を成し遂げました。その実績が認められて世界選手権の日本代表になり、2007年~2009年まで3年連続で日本代表として世界選手権に出場しました。

がんばりましたが世界との差は埋まらず限界を感じ、2014年、白馬24時間耐久レースで優勝したのを最後に引退しました。やりたいことは決まっていたので、社会人経験を経て起業しました。

●自転車のサブスクリプションサービスはどうして発想されたのでしょうか。

起業して、最初に製造した100台を売った時にむなしくなってしまったのです。売った自転車がどうなったのか、どう使われているのかわからない。販売だと、その後もお客さまが来てくれないと交流は続かない。作って売るというビジネスモデルに違和感を覚えました。

日本は放置自転車や廃棄自転車がすごく多くて、年間何万台と捨てられています。その原因のひとつは自転車が安いことです。1万円くらいで買った自転車がパンクして前輪後輪ともにタイヤ交換すると1万円を超えてしまうので、修理せずにまた新しい自転車を買う。だからどんどん捨てられていくというビジネスモデルです。もともと環境負荷の少ない乗り物であるはずの自転車が、捨てられていくことで環境に負荷を与えてしまうということに矛盾を感じたのです。

だったら貸し出すというビジネスモデルに切り替えて、壊れないように常にメンテナンスし、盗られてもすぐ新しい自転車を提供する、もちろん耐久性を重視すると価格は上がってしまうのですが、それをサブスクという形でハードルを下げて使っていただくというしくみを考えました。

この自転車はメンテナンスをしっかりすれば30年~40年乗れる耐久性があります。ただ、何も手入れをしないで3年も放置すれば錆だらけになってしまう。だったら手を入れ続けて30年くらいしっかり使えるような体制を整えて乗っていただくことで、本当の意味での自転車との付き合い方の面白さが見えてくるのではないかと考えてサブスクリプションサービスをスタートしました。

●とても面白いサービスだと思います。最初の反応はどうでしたか?

「大丈夫?」と心配されました(笑)。今のモデルは性善説のもとに組まれているので、盗まれたら現状は追いかけられません。いい人である前提、大事に使ってもらう前提です。現在アプリと発信機を使って位置を確認し、自転車に乗っている方が気づかないうちに修理したりメンテナンスしたりするサービスを準備しています。うちのサービススタッフが、定期的に勝手に手入れをする。毎日使っていてもタイヤの空気も減らないし、汚れないし、壊れないし、どうしてだろう?というのを実現したいと考えています。

サブスクリプションサービスはこれからどんどん進化して、最終形の「使っているけど壊れない」の実現と、ツアーなどのイベントや、もっと快適に乗れるギアの紹介など自転車の情報も提供し、少しずつ自転車を好きになってもらって、自転車を大事にする方が増えるといいなと思っています。

●勝手にメンテナンスしてもらえるサービスは最高ですね!ぜひ実現してください。一方で循環型社会の実現に向けて自転車のリサイクルもされているそうですね。

廃棄を少しでも減らすために、自転車の買い取りサービスを行っています。自転車として再生させるだけでなく、乗れなくなったものは、例えば椅子に再生します。自転車として使えるものはしっかり使って、使えなくなったものは全く新しいものに生まれ変わらせる、というサービスです。

椅子やオブジェに再生したものは、今度福岡西新エリアにできるクラブハウスに展示する予定です。ごみになるはずだったものがそこで再利用され、なるべく自転車を廃棄しないように、ごみにしないように、という活動も同時にしていきたいと考えています。

3.自転車で自由を手に入れる、
サイクルツーリズム

自転車の面倒な維持管理の手間を代行することで、より多くの人に自転車を楽しんでもらえるサブスクリプションサービスは、自転車廃棄問題の解決策のひとつだと感じました。さらに、完全循環型自転車社会を目指す買い取りサービスは自転車文化を日本に根付かせるために必要不可欠な取り組みだと思います。自転車の楽しみの部分についてもうかがってみました。

●サイクルツーリズムについて教えてください。

日本では自転車と観光はなかなか結びつかなかったのですが、瀬戸内しまなみ海道の成功がきっかけになり「自転車活用推進法」が施行されました。それを受けて各行政がサイクルツーリズムに取り組むようになり、そのお手伝いをしています。

タイのサイクルツーリズム「バンコクの見たことがない世界を観られるツアー」を参考にしています。バンコクはビルもたくさん建っていてきれいな都会なのですが、一歩裏路地に入ると全然違う世界が広がっている。細い道を走り、時には市場の中を駆け抜けたり、人の家の軒下をくぐり抜けたりして、リアルなバンコクが見られるツアーで、すごく面白い。

タイのツアーを体験するまでは、よくある観光地をピックアップしてつないでいく、日本のいいところだけを見せるツアーを考えていました。でもきれいなところだけを観てもつまらない。車で行けない道でも行けるのが自転車の良さです。車だと駐車場を探すのも大変ですが、自転車は気になるものがあったらすぐ止まれます。車とは違う楽しみ方ができます。

●自転車ならではの楽しみ方ですね。ぜひ参加してみたいです。こちらのクラブハウスもとても素敵ですが、どうしてこの場所を選ばれたのでしょうか。

朝倉市観光協会で1年間プロジェクトに参加したことがサイクルツーリズムに関わるきっかけとなったのですが、その年に九州北部豪雨災害が起こり、朝倉の半分が壊滅的な状況になりプロジェクトどころではなくなってしまいました。半年間復興作業に従事する中で知り合った地元の工務店さんが、残ってよと言ってくれて、紹介してくれた物件がここでした。

元は農家さんのお住まいだったので、納屋などもあり庭も広いのです。実はここはすごく立地が良くて、観光地の秋月に行く福岡のサイクリストさんたちがよく通る道沿いなので、その立地の良さと広さが魅力でここにクラブハウスをオープンしました。

●お隣には日本で最も古い神社のひとつといわれている大己貴神社がありますし、とても良い場所ですね。こういうクラブハウスはヨーロッパにはたくさんあるのでしょうか。

わたしがいたフランスのエクス=アン=プロヴァンスには自転車のチームが運営するクラブハウスがあって、そこは交流と情報交換の場所でした。一方、地元のカフェはサイクリストさんが集まってコーヒーを飲んでから出発する集合場所です。この2つの機能を融合させたのがこのクラブハウスです。キッズスクールがあって、チームがあるのでメンバーが集まってくる場所ですし、一般のサイクリストさんに立ち寄っていただいてコーヒーを飲んでもらう場所でもあります。

●自転車の魅力を一言でいうとどんなところでしょうか。

わたしにとって自転車は人生そのものです。だからBike is Lifeという社名にしました。もう一歩踏み込んで言うと、自転車はわたしの可能性を広げてくれたものです。学生時代野球をやっていた時はプロになろうとか、世界に出ようなんて考えたこともなかったし、それで食べていこうという目標もなかった。でも自転車を始めたことで、フランスに行くきっかけになり、プロになってさまざまな経験をして、自転車で世界中を旅しました。自転車に乗ることでできたたくさんの経験が自分を成長させてくれた、可能性を広げてくれたと思っています。

●自転車に乗ったことがない人に魅力を伝えるとすると、どんな風に伝えますか?

自転車は「自由を手に入れる」ものです。公共交通機関ですと、A地点からB地点まで毎日同じルートですが、自転車に乗れば、思いついたままに自分で道を決められます。例えば新しいパン屋さんができたら帰りに寄ることもできますし、ちょっと遠出して運動して帰ることもできますし、気になるものを見つけたら立ち止まることもできる。好きな時にすぐ移動できるのも魅力です。移動の自由が手に入ることが自転車の大きな魅力のひとつだと思います。皆さん、自転車に乗りましょう!

日本ではコロナ禍で電車通勤から自転車通勤に切り替えた人も多いようですが、山田さんによると、現在世界的に自転車の需要が増えており、自転車の供給が不足しているそうです。材料不足、材料費高騰、納期も5倍にのびているとか。安い自転車を乗り捨てるのではなく、シェアサイクルとも違う、自分専用のちょっといい自転車に乗れて、しかもメンテナンス付きのサブスクリプションサービスは、今の時代にちょうどいいかもしれません。皆さんも自転車で風を切って走ってみませんか。

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