3.服にまつわる全てを伝えていきたい
家で手軽にお手入れができるものしかつくらない。生きている限り、太ったり痩せたり、サイズは変わるから、それなら気軽にお直しをして、壊れたらリペアして、大切に着られるようなサービスを提供する。オールユアーズの価値観は、ほんの数十年前はあたりまえだったことかもしれません。木村さんが考えるファッションの未来とはどんなものでしょうか。
●今後はどんなブランドを目指していますか?
買う人の選択肢がたくさんある状態が理想だと思っています。オールユアーズはいろいろな価値観がある中のひとつなので、自分たちとは真逆の価値観を持っている人たちもいるし、さまざまなものづくりをしている人たちがもっと認められるようになって、お客さまが妥協して買うのではなく、自分が欲しい服が選べる状態になっていってほしいです。
●業界の発展のためにされていることはありますか?
ブランドの支援サービスを始めています。「ブランドエディット」と呼んでいますが、ブランドを編集していく作業です。通常ブランディングはひとつの面からどう見えるかを考えますが、ブランドには多角的な要素があるので、実は別の面が魅力的だったりする。もっと立体的なはずです。わたしたちはお客さまの顔が見える商売をさせてもらっているので、どういうコミュニケーションをすれば、ブランドの魅力が立体的に感じてもらえるのかを編集する仕事です。
業界にはいいものを作る人がたくさんいて、高い技術を持つ中小企業の工場もオリジナルのものづくりをしようとしていますが、コミュニケーションや見せ方の部分が弱い。ブランドは長い期間をかけて立ち上がっていくものですから、短期的なキャンペーンではなく、5年くらいのスパンでそのブランドの一番魅力的なところをどう編集していくべきかを一緒に考えていきます。
●業界全体のボトムアップを考えていらっしゃるのですね。
わたしたちは商品を売っていますけれども、重要なのはお客さまの体験だと考えています。着た時の体験だけでなく、服のケアの体験もそうです。洗剤メーカー、洗濯機メーカーはそれぞれ縦割りで考えているけれど、お客さまにとってはひとつの服に関わることとしてつながっている。服にまつわるお客さまの体験上にあることをもっと伝えていきたい。お客さまは買ってからが始まりです。買ってからどうやって愛していただくかを考えていきたいです。
ケアだけでなく、わたしたちのつくった服は捨ててほしくないので、そういう選択になったら回収したいです。しくみは今設計中ですが、まず、状態の良いものは直して再販します。売り物にならない状態のものはリサイクルするか最終処分することになりますが、服の捨て方までを伝えていきたいと考えています。実は服はほとんど埋立地に行くのです。
●燃えるゴミじゃないのですか?
ボタンやジッパーがついているとプラスチックや金属と布の組合せになるので燃えるごみにならないのです。綿100のTシャツでも、縫い糸はポリエステル、ネームタグは化繊なので、実際は綿100%じゃない。ボタンやジッパー部分を切って回収に出せば、もう一回ほぐして布になる可能性もありますが、販売する側も伝えていません。家でちょっとだけ手間を加えるだけで、世の中が変わるはずです。つくる側が変わっていくと、買う側も態度で示せるので、サスティナブルな社会になっていくかもしれません。
だから、服にまつわる全てをちゃんと伝えていきたいのです。買うという行為を意識的にしていただきたいので、オールユアーズはオンラインストアのみの販売で、最後に購入ボタンを自分で押してもらうことにこだわっています。
●自分の行動がどういう結果に結びついているのかを知ることは大切ですね。
裏側にあるものに想像力を働かせるとか、背景を理解することは大事ですよね。最近、服に携われて良かったなと思うのは、例えば働いている人は、朝出社してから家に帰るまで、少なくとも8時間以上同じ服を着ているとすると、1日で一番接触時間が長いですよね。そして服を着ない人はいません。直接体に触れるので身体性にも働きかける。だから、今、わたしが話していることよりも、服自体がその人とコミュニケーションするのです。服がコミュニケーションの媒体だと考えたら、すごくいいものを扱っているなと思います。
服は毎日着る、誰でも必ず着る、と考えると、改めて服がわたしたちの生活に大きな影響を及ぼしていることに気が付きます。ストレスフリーな服が人の人生を変えることもあるという事実には、さまざまな気づきがありました。また、服のリサイクル実態については驚きでした。ペットボトルは現在リサイクル率がかなり高くなったはずなので、服についても情報が共有されればリサイクルができるはずです。わたしたちが今「あたりまえ」だと思っていることは、ほんの数十年で変わったこともあります。木村さんがブランドを通じて挑戦している「あたりまえをあたりまえにしない」という姿勢は、今の時代に本当に必要なことなのではないかと感じました。