人をあらゆるストレスから解放する服
People Vol.11 株式会社オールユアーズ 代表取締役 木村まさしさん
一見シンプルで“普通”、着ていることを意識させない「人のストレスを取り除いた設計」が特徴のブランド、ALL YOURS(オールユアーズ)。ビジネスマンの制服であるスーツではなく、私服で職場に行くこともあたりまえになってきた今の時代、多くのファンを獲得しています。代表の木村まさしさんに、“世界一ダサいブランド”と自ら表現するブランドにこめたこだわりをうかがいました。
People
木村 まさし(キムラ マサシ)
1982年群馬県生まれ。大学在学中より大手アパレル小売店で勤務。そのまま社員となり店長やバイヤー、商品企画などの業務に携わる。その後大手アパレル卸企業勤務を経て、2015年7月にアパレルブランド「オールユアーズ」を設立。2020年より「Switch Standard Project」を開始。「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもと、「服にまつわるあらゆる境界線を溶かしていく」ことを宣言し、小さな変化がつくる可能性を模索している。
https://allyours.jp/
【目次】
1.ブランドコンセプト:着ていることを忘れてしまう服
2.服の「新しい普通」:お手入れをして長く着てほしい
3.ファッションの未来:服にまつわる全てを伝えていきたい
1.着ていることを忘れてしまう服
「着たくないのに、毎日着てしまう」。オールユアーズの商品には、こんなキャッチコピーがついています。“インターネット時代のワークウェア”を標榜し、製品の外装(見た目)のデザインはしないが、使い手の立場に立った課題解決のデザイン、ユーザビリティーを追求する姿勢が評価され、何着も購入するファンもいるそうです。
●ブランドのコンセプトを教えてください。
まず、できるだけ着ていることを忘れてほしいのです。「着ていることを忘れる」というのは、身体性における違和感がなくかつ、サイズが合っているという着心地の面もありますが、人からどう見られるかを気にしない、という意味もあります。多分、エニタイムフィットネスが店舗を増やした理由のひとつに、「自分と向き合う場所」であるという側面があったと思いますが、オールユアーズの服も、「自分と向き合うための服」というコンセプトがあります。
●確かに、エニタイムフィットネスは、自分の身体と向き合う場所として利用している方が多いようです。服を通じて自分と向き合うというのはどういうことでしょうか。
わたしの場合は東日本大震災が契機となりました。ファッションは豪華なものや、特別なものを身に付けることによってステータスを感じたり、人からどう見られるかを意識したりするものだと考えていましたが、震災以降、自分が満足することや、自分が気持ちいいことがとても重要だと思うようになりました。創業にあたっては、人の視線を気にするのではなく、自分が着て気持ちがいいもの、毎日着られるものを作りたい、つまり、言い方は大げさですけれども「究極の日常着」を作りたいと思って始めました。
背景にはインターネットの普及もあります。以前は、自己表現の手段はファッションくらいしかなかったと思いますが、今はSNSなどもあるので、必ずしも服で自己表現をする必要がなくなりました。だったら、もっと自分が着ていて気持ちいい服の方がいいという人が増えているのではないかと思います。
●オールユアーズの服はサイズ展開が豊富ですね。
メンズ、ウィメンズの区別なく13サイズ展開しています。「着ていることを忘れてしまう」という言葉には自分が規定されないという意味も込められています。例えば女性の方で、お店にフェミニンな服しか売っていないので、実は着たくないものを着ているという方がいます。服は自分がどういう人間かを表すツールでもあるから、着たくないものを着ていると「自分が引き裂かれるような気がする」という人がたくさんいることが、ブランドを始めてから分かりました。
また、体が小さい男性の方で、若い時にレディースしか着る服がなくて友だちにばかにされたり、いじめられたりした人が、オールユアーズはちょうどいいサイズがあるから、「社会に認められた気がした」と、大げさな言い方をしてくれた方もいます。
服によって自分がアイデンティファイできなくて引き裂かれてしまうという状況を解消することも、「着ていることを忘れる」ことにつながると考えるようになり、最初は「ストレスがない服」という表現をしていましたが、最近は「着ていることを忘れる」という言い方に変えました。
●サイズが豊富にそろっている一方、アイテム数は少ないですね。
通常アパレルはワンシーズンで200型くらいつくります。在庫率を考えると型数を増やすためにサイズを少なくするしかない。そのため近年のアパレル業界のサイズ展開では(適切なサイズで)着られない人の方が多いのです。平均的な体形の人しか、ファッションを享受できない状態になってしまっていて、業界全体で無視している人がすごく多い。それでは多様性の時代に逆行しているのではないかと考え、オールユアーズは逆に型数を絞り込んでサイズを増やしています。