FitnessVol.25

運動で肩こりが
よくなるって本当!?

多くの方が経験しているであろう肩こり。症状がひどくなると、首筋から首の付け根、肩、背中にかけて張ったり、頭痛や吐き気などの症状が出ることもあります。肩こりの多くは、長時間同じ姿勢でいること、運動不足、ストレスなどが原因だと考えられています。実は「体をいたわって!」と発信しているシグナルなのかもしれません。この肩こりを改善する方法を、関西福祉科学大学教授で理学療法士の重森健太先生に尋ねました。

文・ヘルシアマガジン編集部
イラスト・nao yamasaki

そもそも肩こりとは何ですか?

肩こりとは、首から肩・背中にかけての筋肉がこわばり、だるさ、重さ、疲労感、時に痛みを感じる症状です。これは筋肉にある血管が収縮し、血行不良を招くことで起こります。肩こりのひどい方は、デスクワークなどで同じ姿勢で仕事をしていることが多いですね。同じ姿勢で特定の筋肉しか動かさないからです。また、ストレスを感じやすい方も注意が必要です。ストレスフルな状態では、血行が悪くなり、体がこり固まってしまうのです。皆さんも、お心当たりはないでしょうか?

反対に、普段からランニングをしている方やジムで体を動かしている方は血行も良いはずです。運動は血行を良くするだけでなく筋収縮を伴いますので、基本的には肩こりが起きにくくなります。

肩こりの状態を診断する方法はありますか?

肩甲骨の動きを確認する簡単な方法があります。両手・両肘を胸の前でくっつけてください。両肘を90度に曲げた状態で肘が顎まで上がるのか、上がらないのか、顎以上まで上がるのかを調べてください。

  1. 顎まで上がらない人は「重度の肩こり」
  2. 顎まで上がった人は「軽度の肩こり」
  3. 肘が鼻の位置まで上がった人は「肩こりはなし」

つまり、肩こりが生じると肩甲骨の可動域制限が起こりやすくなります。肩甲骨周辺にはたくさんの筋肉があります。「肩甲骨が動かない」というのは、その筋肉群がこわばっている(=肩こり)可能性があるということです。肩甲骨がしっかり動いていたら、周辺の筋肉の柔軟性が保たれているのです。

肩こりを解消するには、ランニングなどの運動をすれば良いのですか?

僕が効果的だと考えるのは、ラットプルダウンのビハインドネックです。このトレーニングでは、首から背中にかけて広がる大きな筋肉である僧帽筋(そうぼうきん)をしっかり使い、肩甲骨を大きく動かすことができます。「ちょっと首の付け根がこったな…」と感じたら、このトレーニングで僧帽筋を鍛えることをおすすめします。僕は肩こりが起こったらすぐに筋トレに行きますよ(笑)。

冒頭、「ストレス」という言葉が登場しました。ストレスが人間の血流に影響を与えるのですか?

大きな影響を与えます。ストレスは自律神経(血圧や呼吸、心拍、消化器などを調節する神経系)にも影響します。ストレスが原因で、頭痛などの体調不良を経験した方も多いと思います。ストレス下にあると、体が縮こまり、こわばりませんか? 血行にも影響しますし、そんな状態が続けば運動なんてする気にもなりませんよね。このように、ストレスを抱えている方は、さらにストレスを抱えるという悪循環に陥ってしまいます。この悪循環を抜け出すには運動が効果的です。

肩こりが起こった際、「ストレスを抱えているのでは?」「運動不足では?」と、体がシグナルを発信していると考えて良いでしょうか?

そうですね。体のシグナルをキャッチしたら、すぐに対応した方が良いです。例えば、肩こりがあるとマッサージに通われる方もいらっしゃると思います。マッサージだけでも患部はある程度柔らかくなりますが、筋収縮がないので肩こりの治療としては少し物足りませんね。マッサージよりトレーニングの方が効果的だと思います。

具体的にどういうトレーニングが良いのでしょうか?

僕のおすすめは2種類のマシントレーニングとランニングです。一つ目は先ほどお話しした「ビハインドネック」です。もう一つはロープなどを引いて、肩甲骨をダイナミックに動かすトレーニングです。ローイングやシーテッドローが良いと思います。これらのトレーニングを行えば、肩こりが一気に改善していくことを自覚できるでしょう。

トレーニング強度は10RM(10回持ち上げられる重さ)を3セットで十分で、3セット目に「限界に近いな」と感じる程度が理想です。ランニングも、肩の動作に関連します。ランニングは腕を大きく振りますよね。腕を振るごとに肩甲骨が動くので、とても効率の良い肩こり予防になるでしょう。ランニングが苦手な方は、ウオーキングでも良いので、大きく腕を振って歩いてみてください。

肩こりを放置すると弊害は起こりますか?

運動不足によって肩こりが起こり、それを放置しておくと悪循環に陥ります。肩こりは筋肉の血行障害ですから、自律神経の不調、筋肉の過労、神経障害などが起こりやすくなります。そうなると、体全体のメカニズムに影響し、生活に支障を来してしまいます。ただ、体が教えてくれるシグナルでもあります。仕事や勉強をし過ぎていませんか? ストレスを感じていませんか? 荷物をいつも同じ手で持っていませんか? 運動不足ではないですか?体に不調はないですか?(例えば歯痛でも、肩こりに発展しやすいです)肩こりを感じたら、生活を見直し、運動に取り組んでみてくださいね。

Profile
重森健太

1977年生まれ。関西福祉科学大学教授。理学療法士。聖隷クリストファー大学大学院博士課程修了。ヒトの運動機能を多方面から分析する研究、および脳科学の視点から脳の評価およびアプローチに関する研究に取り組む。聖隷クリストファー大学助教などを経て、2011年4月から現職。2014年から同大学学長補佐を兼任。また、日本早期認知症学会理事長、重森脳トレーニング研究所所長などの役職でも活動している。