法政大学 泉重樹教授に聞く
ファンクショナルトレーニングを
やるべき理由
ファンクショナル
トレーニングで
身体が目覚める
※法政大学多摩キャンパス内のフィットネススタジオにて
ケガをせずにトレーニングの
効果を出すための準備運動
泉先生のご専門の領域について教えてください。
大学院では腰痛の予防に繋げるために腰部の挙動やリハビリトレーニングについて研究していました。自分が選手時代に腰痛に悩まされたので、腰痛にならない身体をつくりたいというのが研究のスタートです。体幹の筋肉を、腹横筋、多裂筋という内側の筋肉と、外側の筋肉である腹直筋、外腹斜筋で分類しながら、動作における振る舞いを研究していました。
インナーマッスルの研究をされていたんですね。ファンクショナルトレーニングはインナーマッスルを鍛えるトレーニングでもあると思いますが、実際どのような効果があるのでしょうか。
ファンクショナルトレーニングは、ウォーミングアップにとても効果的だと考えています。
トレーニングをする前には準備運動が必要ですが、ファンクショナルトレーニングはケガをせずにトレーニングの効果を出すために最適な準備運動だと思います。
例えば、ローデッドムーブメントトレーニングという、筒状のバイパー(ViPR)を持って振り回すトレーニングがあります。末端で重いものを持って振り回し、体幹は振られないように耐えるエクササイズですが、学生たちで実験したところ、腹横筋が収縮しやすくなるという結果が得られました。手(末端)に重いものを持って動かすと、身体の軸がぶれないよう安定させるために、体幹筋に効くのです。メディシンボールもそうですが、手に重りを持って動かすエクササイズは、体幹を鍛えるのに効果的です。
効果的にトレーニングするために、ウォーミングアップとして行うエクササイズがMovement Preparation(ムーブメントプレパレーション)、またはPrehabilitation(プレハビリテーション=プレハブ)という考え方です。リハビリテーションは「もう一回適切な動きを獲得する」という意味ですが、プレハブは「本格的にちゃんと動く前に準備をする」という考え方です。
ウォーミングアップは
ダイナミック(動的)ストレッチ
で
筋肉を活性化
ストレッチと同じ効果があるのでしょうか。
プレハブは身体を守りながら鍛えるための準備運動です。プレハブはウォーミングアップと言い換えてもいいです。クールダウンは、スタティック(静的)ストレッチでよいのですが、ウォーミングアップは筋肉を刺激して動きやすくするダイナミック(動的)ストレッチが向いています。
私もエニタイムフィットネスの会員ですが、ファンクショナルエリアでトレーニングチューブやバランスボールを使って、肩関節のインナーマッスルや、股関節の外転・外旋や内旋の筋肉をウォーミングアップとして動かします。本トレーニングに入る前に、それぞれの筋肉を弱い負荷で活性化させるのです。専門的には「アクティベーション」と言います。サスペンショントレーニング機器もウォーミングアップに使っています。伸ばしたいところが伸ばせるので、ストレッチでもありますが、トレーニングで重いものを使う時に、サスペンショントレーニング機器でまず筋肉を活性化させるのが目的です。
トレッドミルは多くの皆さんが使われると思いますが、いきなり歩き出すのではなく、歩いたり、走ったりするための準備として、メディシンボールやケトルベルでプレハブ目的のトレーニングをすることをおすすめします。私はケトルベルを使ったゴブレットスクワットをやります。肘が膝につくまで深くやることで、お尻、腿裏、腸腰筋などを活性化できます。ランニングは、消費カロリーは大きくなりますけど、実は使われている筋肉は股関節周りの筋よりも下腿の筋の方が多く使われていることが分かっています。
そうなんですか。
長距離を走るのが得意になればなるほど、ランニングエコノミーと言って、運動の効率が高まる。無駄な筋肉を使わずに燃費良く走れるようになっていきます。長距離ランナーの身体は経済的な運転技術を覚えているのです。身体は、大きな筋肉を先に使って疲れすぎないように、小さい筋肉から効率よく使うことに慣れていくのだと思います。だから、ウォーミングアップの時に、普段使われにくい大きい筋肉も事前に活性化することがトレーニングをより効果的にします。
トレーニング前にストレッチをしましょうというのはよく聞きますけど、トレーニング前に関節周りの筋肉をちゃんと活性化させるということが大切なんですね。
例えば、ベンチプレスをやる場合、肩関節の内側の筋肉(インナーマッスル)が活性化されていないと、肩関節の外側の筋肉(アウターマッスル)が先に強く動き始めるのですが、それで関節がぐらぐらするんです。事前にチューブトレーニングなどで肩にある4つのインナーマッスルを活性化しておけば、それらの筋肉が肩関節の関節頭を安定させてくれるので、関節の滑らかな動きの保護につながります。
股関節は横向きになってチューブを使ったクラムシェルが効果的です。股関節周りの筋肉を最初に活性化させてからスクワットをやるといいですね。
体幹トレーニングやバランスボールなどを使ったファンクショナルトレーニングがウォーミングアップになり、いろいろな筋肉を活性化させることにつながるので、トレーニングの効果を安全に高めるためにはとても有効だと思います。
ボディメイクが目的の人にも、
普段トレーニングしない人にも
効果的
ボディメイクを目的に筋トレをしている人にとっても、トレーニング前にファンクショナルトレーニングをすることで、より効果が出てくると考えていいのでしょうか。
ケガの予防にもつながります。フリーウエイトを中心にトレーニングされる方は、手首が痛くなった経験のある方が少なくないと思います。エクササイズでケガをしてしまう方も多いと思うのですが、同じところばかり使っていて、その負荷に耐えられなくなることで、関節が痛くなったり、腱鞘炎になったりという症状が出てきます。そうならないようにするためには、事前に筋肉の協調性を高めるエクササイズをすることが大切です。それが、チューブやメディシンボール、バランスボールを使ったファンクショナルトレーニングです。
3面の動きを取り入れて、力の吸収と発揮があって、ちゃんと重力を使ってというファンクショナルトレーニングの要素はとても大事な考え方なので、まずそういうエクササイズをする。それによって身体が目覚めるので、それからウエイトトレーニング、ランニング、マシントレーニングといった負荷の高いトレーニングをするといいと思います。
普段あまりトレーニングをしていない人にとって、ファンクショナルトレーニングはどのような効果がありますか。
ファンクショナルトレーニングは、自体重やそんなに重くない負荷でエクササイズをすることができるので、機能的に動ける身体になると思います。
この図を見ていただくと分かりやすいと思いますが、縦軸を負荷の高低、横軸を静的と動的でわけたトレーニング方法の分類です。
通常のウエイトトレーニングは高負荷ですが静的です。スタティックと直線的という言い方をしますが、マシンは動きが決まっていますし、フリーウエイトも1面の動きしかできないのでライナーと表現します。動的で負荷が低いトレーニングはSAQ(Speed Agility Quickness)トレーニングです。ダッシュとか、方向転換とか、急に反応するとか、そういうエクササイズですね。競技に近いスピードや、反応、リアクションを求めるトレーニングです。静的で負荷が低いトレーニングにはリハビリなどが含まれます。
高負荷で動的なトレーニングに分類されるのが、メディシンボールやケトルベルといったトレーニングです。3次元にできるし、重りも持っているから、いわゆるファンクショナルな動きになります。この領域は、筋トレにもなっているし、体幹トレーニングにもなっているし、3次元に動いて、いろんな動きができるので筋肉の活性化(アクティベーション)につながります。
バーベルなどのフリーウエイトを用いたウエイトトレーニングは私の中ではチャンピオンで、ウエイトトレーニングでしか鍛えられない筋肉やスポーツと直結する動きというのがあります。ただ、これまでも話したように、いきなり負荷が高くなると、当然ケガをする。アスリートは自分のウォーミングアップにもルーティンがありますが、一般の方が準備や、ウォーミングアップもせずにトレーニングをするとケガをします。ケガをしないためにも、まず3次元の動きができるファンクショナルトレーニングで、体幹や下半身、肩周り、股関節をアクティベートすることが大切です。
ファンクショナルトレーニングは、アスリートにとっても、ボディメイクを目的に筋トレをしている人にとっても、そして、普段あまりトレーニングをしない人にとっても、ケガをしない身体づくりのために効果的だということが分かりました。ありがとうございました。
法政大学 スポーツ健康学部/スポーツ健康学研究科 教授。博士(スポーツ医学)。大学時代はボクシング部で選手として活躍。現在はフットサル男子日本代表、ボクシング男子日本代表アスレティックトレーナーとしても活躍している。