ReviewVol.27

遺伝子検査で新しい自分を知る

文・井上英樹(MONKEYWORKS)
写真・香西寛司

一番身近な存在なのに、一番分からない。まるで「なぞなぞ」のような問いですが、自分のことは何年経っても分からないものです。海外の友人と話していると「自分のルーツ」のことが当たり前のように話題になります。語り継がれた家族の話から知ることもあるのでしょうが、遺伝子検査(DNA検査)で知る人も多いようです。

本当の自分と出会うには?

手軽に自分のことを知りたい時は、献血がおすすめです。本来、献血は手術での輸血や治療で使用する血漿(けっしょう)を提供するボランティアです。ただ、採取した血液は7項目の生化学検査と8項目の血球計数検査が行われ、後日アプリや郵送で結果が知らされます。また、受付時に申し込めばB型、C型、E型肝炎検査、梅毒検査なども可能です(※あくまでも献血の目的は、検査ではなく血液の提供です)。平均値から逸脱していた場合、病院で再検査をすれば体の異常を早期に発見できるかもしれません。しかし、これで分かるのは「今」の状態。自分自身がどんな特性を持った人間なのかということは分かりません。

「遺伝子検査(DNA検査)」では、ルーツだけではなく、身体的傾向や体質、病気の傾向も分かるそうです。最近はDNAの解析技術が発展し、安価で容易に行えるようになっています。もちろん、この検査は「遺伝的傾向」が示されるものですから「将来、がんで死ぬんだな!」とか「心臓病にはならないんだな」という未来予測ができる訳ではありません。あくまでも遺伝子の統計的傾向です。そこで今回は、約360項目の検査結果が分かる総合遺伝子検査キット『GeneLife Genesis2.0 Plus』を購入してみました。

後日届いたキットで唾液を収集し、郵送で送ります。約1カ月後、検査結果の閲覧が可能になったという知らせがメールで届き、専用アプリで報告書を閲覧すると「体質」と「疾患リスク」という項目がありました。「体質」では志向性、能力、体型、骨、血液・免疫、栄養素などが分かり、「疾患リスク」からは感染症、循環器、呼吸器、消化器、神経系、がんのリスクなどの「遺伝的傾向」が分かります。ざっと見たところ、凡庸たる結果でしたが、いくつか思い当たる点がありました。

私の体質の傾向は

  • 情報処理能力が高い(少し嬉しい)
  • 苦みを感じやすい(苦み大好物です)
  • アレルギー体質(昨年、漆アレルギーデビューしました)
  • スギ花粉症(20年以上患っています)
  • カフェイン好き(今もコーヒーを飲んでいます)
  • 買いだめしやすい(母もです)
  • 夜型(たしかに)
  • 有酸素運動の能力がやや低い(エニタイムでもほとんど使いません)
  • 筋肉が付きやすい(短期間で割と効果が出ます)

というものでした。情報処理能力が高いかどうかは別として、他は当てはまっています。なぜ「買いだめ傾向」があるかどうかが分かるかというと、私の遺伝子LCA5遺伝子は「買いだめ傾向」にあるそうなのです。

では、かなり個人情報の大盤振る舞いですが「疾患リスク」を見てみましょう。

  • ノロウイルス感染(これは誰でもですね)
  • 高山病(標高2600メートルでなったことがありました)
  • 痛風(医師に注意されました)
  • 糖尿病網膜症(これは気にしたことはなかったです)
  • 副鼻腔炎(鼻悪いです)
  • アルコール依存症(怖い!)

という結果に加えて、がんのリスクが全般的に「やや高い」ということでした。将来的にがんになるリスクの「遺伝的傾向が高い」のでしょう。

また、「体質」と「疾患リスク」の検査結果を基にした「DIET」、「SKIN」、「SPORTS」という項目もあり、遺伝子タイプ別のダイエット、スキンケア、運動のアドバイスが書かれていました。運動面でいうと、どうやら私は中距離走やボクシング、サッカーなどの競技に向いているようでした。たしかに、引かれる競技ばかりです。

自分自身のルーツを知る

ルーツは……というと、見当たりません。『GeneLife Genesis2.0 Plus』では別料金でした(ルーツを知りたい人はご注意ください)。追加で課金をすると数日で結果が届きました。私のルーツは「日本人(87%)」と「朝鮮人(13%)」から構成されており、どこかのタイミングで朝鮮半島経由で日本にやってきたということが分かります。「祖先の移動経路」という検査ではそのはるか前を知ることができます。これがとても興味深い検査結果でした。

私の父方のハプログループ(細胞内のミトコンドリアを用いて分類される遺伝的グループ)はO1b2a1a2a1というものでした。約27万5000年前にナミビアで発生し(全員がそうですね)、西サハラ、カメルーン、スーダン、リビア、エチオピア、インド、イラク、トルコ、アフガニスタン、ロシア、中国、ミャンマーなどを遺伝的つながりを持ちながら、朝鮮半島を経由して日本にやって来たのでした。これまであまり関心のなかった国や地域がとても身近に感じるようになった検査結果でした。

遺伝子検査の面白さは、ネガティブなこともポジティブなことも「遺伝的傾向はこうなっていますよ」と、提示されるということです。その結果をどう受け取るかは個人に委ねられます。病気などネガティブなことが気になるのなら、そこを意識して生活を送れば良いし、ポジティブな点はそこを良さとして伸ばせばいい。「あなたの個性は置いておいて、DNAはこういう傾向ですよ」という新しい自分の姿を見たような感じです。これもまた自分自身なのでしょう。時折、検査結果を見返しながらビールを……いや、お酒はやめてお茶でも飲みながら、遠い旅路を想像してみようと思います。