トレーニングの
「文法」を
手に入れる方法
最強の英語勉強法はしっかりと文法を覚えること。言語を研究する教授にそう言われたことがある。言語の骨格を掴むには文法が必須なのだとその先生は力説した。土台を作った上で語彙を増やし、言い回しを覚えたら、自然と話せるようになるはずだと。
さて、その考えはトレーニングにも当てはまるかもしれない。思い付くまま、走ったり、胸を鍛えたり、脚を追い込むとしよう。初めは体力が向上し、筋肉も大きくなるだろう。だが、結果は「そこそこ」だ。多くの人が日々のトレーニングに疑問を抱きながら試行錯誤しているのではないだろうか。
遠い昔の記憶を思い返してみても、体育の授業ではバスケや持久走をしたけれど、体の鍛え方という「文法」は習ったことがない。当然、大人になった今でも、ロジカルに筋トレを行う術を知らない。雑誌の筋トレ特集を読んでみたり、YouTubeのマシントレーニングを見てみたりしているけれど、冒頭の教授の言葉のように「文法」を知らないので、どうしても継ぎはぎの知識になってしまう。
トレーニングの文法を
体で覚える
同様の悩みを抱えているトレーニーにおすすめなのがマイケル・マシューズによる『筋トレ大全』だ。分厚いので「文字だらけの学術的な本は自分とは関係ない」と手にすることすら拒む人がいるかもしれない。むしろ、そういう人に手にしてほしい。読み進めても、あまりトレーニングの話が出てこないのだ。出てくるのは「トレーニング以前」の話。本著は430ページもあるが、具体的なトレーニングの話が出てくるのは半ばを過ぎた頃だ。
- なぜ私たちはダイエットや筋力トレーニングをやめてしまうのか。
- なぜ欲望に負けるのか。
- なぜフィットネスジムに行くのをサボるのか。
- トレーニングや体作りに関する俗説。
- 体作りに必要な栄養素。
……このような話が、前半を占める。彼は10年以上お金と時間をかけてトレーニングを行い、あらゆるフィットネスマガジンに目を通したが、自分の理想の体を手に入れることができずにいた。そこで、彼は運動生理学を学び、さらに栄養学、心理学なども取り入れながら、科学的にトレーニングに向き合うようになった。その結果、彼の体は大きな変化を遂げたそうだ。現在ではアメリカでも著名なパーソナルトレーナーの地位を築いている。本著では彼が学んだ科学的根拠と経験に基づいて、トレーニングに対する心構えや具体的な方法を丁寧に解説している。
トレーニング理論だけを求める人には、少々まどろっこしいかもしれない。それに、世の中に流布している考え方をアップデートや否定している部分もあるので、トレーニング上級者の中には本書に対して疑問を感じる人がいるかもしれない。だが、トレーニング方法は時代によって変わるし、今の日本で当たり前のトレーニング方法が必ずしも正しいわけではない(少なくとも数十年前までは運動中は水を飲むなとかウサギ跳びをしろと言われていたのだから)。
一つ言えるのはジムに行って体を鍛えると同時に、良質の読書によって「トレーニングの文法」を覚えていくことも大切なのではないかということだ。『筋トレ大全』で「文法」を頭に入れ、自分自身のトレーニングに取り入れてみてはどうだろう。そうすれば、マンネリを打破し、新しいトレーニングの境地に立てるかもしれない。そんな予感を抱かせてくれるのが『筋トレ大全』だ。