SpecialVol.11

イメージコンサルタント
安積陽子さんに聞く

世界のビジネスエリートたちは
なぜ体を鍛えるのか

2021.09.28

服装や着こなし。そして態度や言葉遣いは、その人がどんな人であるのかを饒舌に語る。だからこそ、立場に合った服装や態度を身につけなくてはならないと世界のビジネスエリートたちは考えるのだそうだ。それに加え、彼ら彼女たちは日々体を鍛えている。多忙なカマラ・ハリス米国副大統領でさえ、日々の運動を欠かすことはないという。その理由はどうしてなのか。アメリカで印象管理術を学び、現在は日本でイメージコンサルタントとして活躍する一般社団法人国際ボディランゲージ協会の安積陽子代表理事に話を聞いた。

●はじめに安積さんの肩書である「イメージコンサルタント」とは、どのようなお仕事なのかを教えてください。

私はアメリカで、ビジネスパーソンや政治家に向けた「印象管理術」を学び、イメージコンサルタントとしてのキャリアをスタートさせました。私たちのアドバイスは好感度の高い身だしなみや服装、表情、ボディランゲージ、姿勢や歩き方、写真の撮られ方、メイクと多岐にわたります。なぜ、ビジネスパーソンたちは、コストを掛けてまで外見を磨こうとするのでしょうか。それは外見上の印象を高めることが、ビジネスにおける成功の必須条件だからです。

「日本人ビジネスパーソンは、見た目から立場を判断するのが難しい」。これがニューヨークに住んでいた頃、日本人についてよく耳にした評判です。つまり、役職と見た目が一致しないのです。日本人の経営者やエグゼクティブの方々の中には、立場が上がってもそれにふさわしい振る舞いや装いをされていない方が少なからずいらっしゃいます。日本では立場にふさわしいイメージを“戦略的に作る”という発想を持つ方が多くないからかもしれませんね。

●外見上の印象を高めることに、体を鍛えることも入っているのでしょうか?

ええ。海外のホテルに行くと必ずジムがありますよね。ジムでは早朝から汗をかいている人をたくさん見かけます。第一線で活動している方は、当然のように運動をしていますので、海外のビジネスエリートの方で運動をしていない方を探す方が難しいかもしれません。彼ら彼女らにとって「仕事が忙しいから運動ができない」というのは、一番恥ずかしい言い訳なんです。「忙しい」と言ってしまうのは、自分の時間をコントロールできていないと取れます。そんなことをつい口にしようものなら、「マインド、モチベーション、エネルギーを管理できていない人間」と解釈されてしまうでしょう。

病気などをしないため、ベストパフォーマンスで日常を過ごすために、多忙な人ほどエクササイズをする傾向が強いですね。運動の動機は、「もてよう」とか、「痩せて格好よくなろう」といったレベルではないのです(笑)。運動は自分自身に対する長期投資として、常にベストな状態でいるために必要不可欠なものという位置づけです。トレーニングのスケジュールがあるのに、「今日は旅行だからさぼろう」とか、「出張だから走るのをやめよう」というような考え方は、前提としてあり得えません。だから、海外のビジネスエリートが泊まるようなホテルには必ずジムがあるんです。

カマラ・ハリス副大統領は、睡眠時間を削ってもワークアウトは欠かさないと宣言しています。ジムやプールに行く時間がないときは、ホワイトハウス近くを走っているようですね。おそらく、国民にも走る姿をあえて見せているのでしょう。メディアでその姿を見たアメリカ国民はどう感じるでしょう。「我が国で一番忙しい人のひとりであろう副大統領が、職務の間に時間をつくって走っている……」。このメッセージを受け取った国民は「よし、自分も!」と、感化されますよね。

運動は人生に対する先行投資

●安積さんの著書『CLASS ACT(クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』(PHP研究所)の中に、「スーツをスマートに着こなすためには、余分なぜい肉を落とし、胸板と上腕二頭筋にフォーカスして鍛えることが不可欠」という表現がありました。スーツの見栄えのためにも、やはり運動は不可欠なのですね。

ファッションの歴史をひもとくと、現在のスーツの流れのひとつは軍服から来ているんですね。軍服が起源ということは、当然のことながら貧弱な体でスーツを着てもあまり様になりません。しっかりと体を鍛え、程よく筋肉が乗った強靭な体(大胸筋や上腕二頭筋)があってこそスーツは似合うように作られているんです。スーツにしっかりとフィットした体をつくるためには、正しい食生活をして、定期的な運動をし、コアマッスルと筋肉をつけて、それではじめて着映えがすると思います。

一方、女性の体は男性と比べますと、より凹凸感がありますよね。そのフォルムを自然な形で強調するシルエットをつくるためにも、やはりエクササイズは欠かせないと思いますね。ビジネススーツを着こなす上で、男女を問わず体を鍛えれば、スーツを立体的に着ることができ、周りから見て美しく見えます。それがスーツスタイルなのではないかなと考えております。

体はその方の「名刺」であり、「看板」。そして、どれだけストレス耐性の強い人間かを示すバロメーターのひとつです。しっかりと運動をし、プロフェッショナルとしてあらゆるストレスに打ち勝つことができると示さなければいけない。体を鍛えることによって、内面はもちろんですが、「リーダーとしての力があるぞ」と、PRするためのひとつのツールになります。運動は男女問わず、必要な要素だと私は思いますね。

●運動は体づくりだけではなく、メンタル面にも良い作用があるのでしょうか。

運動をしているときや後に、気持ちよくなることはありませんか? 実際にエクササイズをすると、脳内で機能する神経伝達物質であるエンドルフィンが分泌されます。これは幸福度を上げてくれるホルモンです。すると、ストレスのかかる環境下で仕事をしていても、幸福度を感じられる心の状態になるのです。これはスタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガルさんが研究した科学的裏付けのある考えなのです。

運動には、人とのつながりや愛情を感じやすくなるという効果もあるそうなんです。コロナ禍で、気軽に人と会ってコミュニケーションがとれなくなりました。ですが、運動によって愛情ホルモンや枯渇感を満たすことができるのです。運動はそういったメンタルの部分にも多大なメリットがあるんです。

裸になったとき、そこに残るもの

●TVやファッション誌には「アンチエイジング」という言葉が躍ります。しかし、顔にしわができ、肌が日に焼けていても、年輪を重ねた美しさがある。それこそが長い人生を生きた美しさだと思います。安積さんは、年を重ねていくことをどうお考えでしょうか。

アンチエイジングを訳すと「年齢に抗う」という意味になりますね。けれど、言葉としても現状を否定している感がありますよね。これは、「若い方が良い」、「年を取ることが悪い」という前提の下にできた言葉だと思います。

今、欧米の美容雑誌では、アンチエイジングという言葉はほぼ登場しません。トレンドからいっても古い概念になっていると思います。それよりも「エイジレス」という言葉が受け入れられているように思います。年齢というものはただの数字ですから、気にしすぎることはない。だって60代で若々しいメンタルを持っている方もいれば、30代でそうではない人もいますからね(笑)。年齢で人をカテゴライズするのではなくて、「内面や体の柔軟性が大切」という軸に、やがて日本もなっていくのではないかと考えています。

その時、その人のベストな状態を達成できている方はすごく美しいと思います。メイクで表面的にそれっぽく見せるんじゃなくて。……結局は、服を全部脱いだときに何が残るかですよね。服でも、アクセサリーでも、髪型でも、メイクでもない。裸になった時、最後に残るのは、その人が持つ雰囲気だと思うんです。この雰囲気というものは、一朝一夕でつくることはできません。常日頃から、どのように人と向き合い、どう自分を見て、どんな言葉を使って、どういう表情で、どういうふうに生活を送ってきたのか……。これら総合的なものが、その人ならではの雰囲気をつくります。私はそれが人の本質的な美しさだと思います。

積み重ねたものが
その人の本質になる

●安積さんのお話から、運動やさまざまなものを通して、人の本当の意味での美しさや雰囲気を育んでいくことの重要性がわかりました。

ありがとうございます。そうですね。表層的に着飾っても、見る人が見れば、すぐに見破られてしまいます。人生で積み重ねてきたものが、言葉や態度や姿勢に現れます。その一端は日々のルーティンに全部反映されてきます。自信に満ちて結果を出している人ほど、実は長期的にしっかりとその日に向けて準備をしてきた方が多いんですよね。

アメリカで生活していたときに耳にした「十分準備し過ぎるぐらい常に準備せよ」という言葉をよく覚えています。十分に準備することこそが、その人の雰囲気となり、言葉となり、全てに反映されます。なにごとも決して付け焼き刃ではいけない。「来週プレゼンだからいいスーツを買おう」ではダメなんですね(笑)。まずはプレゼン内容を考え抜き、資料の内容を充実させることが重要です。全力の準備こそが、その人のオーラとなって出るはずです。

体づくりも同じことですね。長期的にしっかりと自分の体を鍛えることがいかに重要かがおわかりになるかと思います。体を鍛えれば、おのずと良いマインドになっていくでしょう。体とマインドの関係が循環のようにしっかりと整っている人にこそ、人は信頼や安心感を覚えるのです。そうすれば「この人は本質がしっかりしているな」と、思っていただけるのではないかなと思います。

PROFILE

安積 陽子(ASAKA Yoko)
イメージコンサルタント、一般社団法人国際ボディランゲージ協会 代表理事。 アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング科を卒業。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブ、政治家、俳優、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、同社の日本校代表に就任。2016年、国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、しぐさから相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材を育成」。近著に『CLASS ACT (クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』(PHP研究所)がある。
https://www.body-language-expert.com/


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